より高い値決めをしても、お客さんに満足してもらうには!?-『レベニュー・マネジメントの理論と展開』(片岡洋人著)から読み解いてみる-|Research Book Review
1 「顧客に価値をもたらす値決め」とは?
(1) これまでは「売りたい」=「値下げ・値引き」とされてきたけれど…
「値決めは経営である」というのは、故・稲盛和夫氏の有名な言葉です。この値決め、すなわちプライシングについて、顧客の購買行動を促進しようとするときに出されやすいアイデアが「値下げ・値引き」です。
「安いことは良いこと」、「安くすればお客さんは喜んでくれる、買ってくれる」…。しかし、そのアイデアはお客さんにとって本当にベストでしょうか?
(2) より高い価格でも、お客さんが満足するケースもあるのでは!?
本記事を読んでいる方の中には、日本企業がこれまで苛烈な低価格競争にさらされてきたとの実感を持っている方も少なくないのではないでしょうか。もし、よりプレミアムな価格を設定する(編集部注:より高い価格をつけること、プレミアム・プライシング)と同時に、顧客が満足するような状況が作れたらどうでしょうか。顧客にとっての価値を追求することでプレミアム・プライシングを達成し、利益を最大化するための理論はあるのでしょうか?
本記事では、この問題に挑戦した書籍『レベニュー・マネジメントの理論と展開』(片岡洋人著)を紹介します。
2 伝統的なレベニュー・マネジメントを越えて
(1) 「レベニュー・マネジメント」ってなに?
そもそも、本書のタイトルにある「レベニュー・マネジメント」とは何でしょうか?
典型的な例は、航空券の価格設定でしょう。盆と正月にはおそろしく高価だった航空券が、何でもない平日にはとても安く売られている。このような販売価格の差別化を主な手段として売上の最大化を目指すことが、ながらくレベニュー・マネジメントの中心的なポイントとされてきました。
しかし、本書におけるレベニュー・マネジメントの焦点はこのような販売価格の差別化にはおかれていません。本書がレベニュー・マネジメントで重視するのは、「顧客の視点による価値」です。このような伝統的なレベニュー・マネジメントの理解を超えた提案が、本書の特長の1つです。
(2) どう発展してきたか、実務と研究の両面から理解する
とはいえ、本書は伝統的なレベニュー・マネジメントを軽視しているわけではありません。本書では、伝統的なレベニュー・マネジメントをめぐる実務と研究はどのように発展を遂げてきたのかを丁寧に追い、その理論的な背景も検討しています。
これからレベニュー・マネジメントに向き合う企業にとって、レベニュー・マネジメントが発展してきた経緯を、社会的・技術的・理論的な背景とともに理解しておくことは、自社での進展を考えるうえで役に立つでしょう。
(3) 「モノ」×「サービス」で顧客の課題解決へ
そのうえで、本書では「拡張されたレベニュー・マネジメント」として、近年多くの製造業者が取り組んでいる「サービタイゼーション」に注目しています。
サービタイゼーションとは、単に「モノ」を製造・販売することを超えて、「モノ」と「サービス」を組み合わせることで顧客が抱えている課題を解決するビジネスモデルです。たとえば、エレベーターを売るだけでなく、その後の保守サービスもあわせて提供するようなケースがよくみられます。本書では、このサービタイゼーションの展開を丁寧に追ったうえで、原価計算・管理会計の諸技法との関係を考察しています。
3 「価値主導型原価計算」の提唱
(1) 販売価格を高めるためには!?
これまで紹介してきた内容の検討を通じて、本書では、「顧客にとっての価値」の重要性が明確にされます。そして、「顧客にとっての価値」を追求して顧客に訴求するために重要な役割を果たすものとして、「コスト<販売価格<顧客にとっての価値」という不等式をコアとする「価値主導型原価計算」を提唱しています。
顧客にとっての価値を追求するために、コストとレベニューをどのように捉えていくべきか、計画とレビューにおいて何が重要になるのかを明らかにしています。
(2) 本書をオススメしたい方
本書のようにレベニュー・マネジメントを捉えたとき、これは企業内のあらゆる部門がかかわる全社的な課題であることがわかります。マーケティング担当者だけでなく、管理会計担当者をはじめ、「顧客にとっての価値」にかかわる企業内のあらゆる担当者の皆様にぜひ手に取って欲しい1冊です。
また、本書の最後には、研究課題としての多様な展開の可能性が具体的に示されています。原価計算・管理会計研究における「顧客にとっての価値」の重要性に賛同する研究者の方にもお勧めの1冊です。
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