新型コロナウイルスの影響を会計上どう見積るか【2020年4月16日掲載記事アーカイブ】
見積要素の重要性
現代の財務会計の特徴として、将来期間に関する見積りの要素が従前に比較して非常に重要になっている。例えば、固定資産の減損における使用価値の計算では、設備の使用により獲得される将来キャッシュ・フローを見積る必要がある。また、繰延税金資産の回収可能性の判断に関しては、将来の課税所得を適切に見積る必要がある。
固定資産についていえば、例えば、設備の平均耐用年数は一般的に10年を超える。そもそもこうした中長期にわたる将来見積りには苦労するのであるが、新型コロナウイルス感染症の拡大により売上高が急減するなどの厳しい経営環境下においては、一段と不確実性が高まっていることに留意しなければならない。
最善の見積り
会計上の見積りに関する会計基準として、企業会計基準委員会(ASBJ)が設定する企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」がある。この第24号において、「会計上の見積り」は、「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出することをいう」と規定されている(第4項(3))。
ASBJは、2020年4月10日に議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」を公表し、以下のような追加的な解釈を提供している。
新型コロナウイルス感染症の影響のように不確実性が高い事象についても、一定の仮定を置き最善の見積りを行う必要がある。
一定の仮定を置くにあたっては、外部の情報源に基づく客観性のある情報を用いることが望ましい。ただし、新型コロナウイルス感染症の影響について、外部情報としての客観性のある情報が入手できないことも多いと考えられるため、企業自らが一定の仮定を置くことになる。
企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積りを行った結果としての見積金額は、事後的な結果との間に乖離が生じた場合でも「誤謬」にはあたらない。
最善の見積りを行ううえでの企業による一定の仮定は、企業間で異なることも想定される。このため、どのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったかについて、財務諸表の利用者が理解できるようにするため、重要性がある場合は、追加情報として開示が求められると考えられる。
監査人との協議
会計上の見積りに関して、日本公認会計士協会は会員(監査人)に対し、2020年4月10日付で「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」を公表している。これは監査人に対する手続上の留意点として記載されているものではあるが、会社の立場としては掲げられた項目について監査人に合理的に説明できるように、見積りの根拠を明確にしておくことが合理的である。
会計上の見積りの合理性の検討
監査人にとっては、会計上の見積りに関して、特に、経営者が使用した仮定が、適用される財務報告の枠組みにおける測定目的に照らして合理的であるかどうかの評価が重要と考えられる。
新型コロナウイルス感染症の収束時期等の予測に関して、経営者が一定の仮定を置いている場合には、監査人は、その仮定が「明らかに不合理である場合」に該当しないことを確かめることになる。この場合、例えば、「見積額の選択が、過度に楽観的又は過度に悲観的な傾向を示していること」が、検討の指標となると考えられる。
会計上の見積りに用いられた情報の検討
会計上の見積項目に関連して、将来の利益やキャッシュ・フローの予測が行われている際には、企業の事業活動にマイナスの影響を及ぼす情報およびプラスの影響を及ぼす情報の双方を含む入手可能な偏りのない情報に基づき、企業固有の事情を加味して説明可能な仮定および予測に基づいて見積っていることを確かめる。
筆者略歴
持永 勇一(もちなが・ゆういち)
公認会計士