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【日立製作所】 グループ・グローバル共通の人財マネジメント基盤を確立―目指すは仕事をキーとした組織と個の対等な関係―

ジョブ型人事を導入する先進企業の賃金の考え方や人材開発がわかるケース
・日立製作所 
・東京エレクトロン 
・テルモ 
・三菱マテリアル 
・三菱ケミカル

執筆:須田敏子(青山学院大学ビジネススクール教授)

(注) 本記事は,中央経済社発行の書籍『ジョブ型・マーケット型人事と賃金決定』(須田敏子著)に収録されているケースをnoteの有料記事として販売するものです。

ジョブ型・マーケット型人事と賃金決定―人的資本経営・賃上げ・リスキリングを実現するマネジメント

1. “社会イノベーション事業のグローバル展開” をグループ・グローバルの戦略目標に掲げ,事業構造を改革

リーマンショック後の2008年度決算で純損失額7,873億円という巨大な赤字を計上した日立製作所は,翌年の2009年からグローバルリーダーを目指して事業構造改革に取り組んでいる。日立製作所の人財マネジメント改革に先立ち,人財マネジメント改革に影響を与えた同社の事業構造改革の内容をみていく。
2010年度にスタートした「2012中期経営計画」では,「日立の強みを発揮するグローバルな成長戦略推進」「社会イノベーション事業への経営リソース重点投入」「経営基盤強化による収益安定化」が主要施策として掲げられている。ここで,現在まで続く“社会イノベーション事業のグローバル展開” が経営の方向性として示されていることがわかる。続く,「2015中期経営計画」では,事業の方向性として,“プロダクト・サービス・ITを組み合わせてのソリューション提供” を内容とする「社会イノベーション事業」をグローバルに提供する,とより具体的な方向性が示された。さらに,経営基盤の確立(トランスフォーメーション)として,グローバルオペレーションとグローバル人財がトランスフォーメーションの重点分野として挙げられ,これらの実現を通じてグローバルリーダーになるとの目標を設定した。その後,「2018中期経営計画」「2021中期経営計画」「2024中期経営計画」と3回の中期経営計画が発表されており,社会イノベーション事業のさらなる進展として,IoTプラットフォーム“Lumada”(Illuminate data(データに光を照らす)という意味での日立の造語)の活用などさまざまな戦略が発表されている。だが,本稿は人財マネジメント分野に焦点をあてており,人財マネジメントに影響を与える事業構造改革の方向性は,「2015中期経営計画」時点までにほぼ確定していると判断し,「2015中期経営計画」までの事業計画に絞って紹介する。
これら中期経営計画において,一貫して述べられているのが,グローバル規模での社会イノベーション事業という視点での事業展開である。当該事業に注力する理由としては,「IT・OT(Operational Technology)・プロダクツと多岐にわたる領域で高い技術力を有する」という同社が有する強みで勝負することが,グローバルリーダーに向けた持続的成長につながる,との経営判断があったためと筆者は捉えている。より具体的な事業の方向性としては,1つは,コモディティ化しやすいモノづくり・システム単体でのビジネスをコアビジネスから外し,プロダクト・サービス・ITなど幅広い分野での高い技術力の結集により,単一の製品・サービス以上に競争力を発揮する,ということだろう。そして,幅広い技術分野の結集のためには,国内外のグループ企業が「One Hitachi」としての活動が不可欠である。
社会イノベーション事業の事例としては,英国の鉄道車両・保守サービスビジネスが挙げられる。日立製作所は約900両の車両リース・IoTを活用した保守サービスの契約を締結し,英国で鉄道ビジネスを展開している。それまで英国では,鉄道が老朽化し,遅延が頻発,たびたび事故が発生していた。この問題を,遠隔による状態監視と異常なセンシングデータの分析による故障モード解析に基づく次世代メンテナンス(IoT活用)と,部品交換サイクルの延長,在庫とサプライチェーンの最適化などを通じて解決し,定時運行,安全快適な運行を通じた利用者のQoL(Quality of Life)の向上を実現したのである。まさに単に1つの製品・サービスをお客様に提供するのではなく,イノベーションをもたらす総合システムを提供し,社会とビジネス顧客の現在および将来の課題を解決する社会イノベーション事業のグローバルな提供の例である。英国に7年間暮らした経験のある筆者にとって,英国で列車が定時にやってくるというのは,まさに英国における社会イノベーションと実感する。

2. 人財面からグループ・ビジョンを実現―グローバル人財マネジメント基盤の確立

2012年と2015年の中期経営計画においてトランスフォーメーションの重点分野の1つに挙げられたグローバル人財マネジメントについては,具体的に「グローバル・グレーディング」「国内外のローテーションによる最適配置」「世界中のリーダーが経営に参画」の3つが挙げられている。この方針を踏まえ,「グローバル人財戦略」が2011年6月に策定された。それ以前は,国内外のグループ企業がそれぞれ独自の人事施策を導入し,人財マネジメントを展開していた。従来の事業の方法では大きな問題は起こらなかったが,多岐にわたるプロダクト,サービス,ITを組み合わせてイノベーションを実現するという社会イノベーション事業では,グローバル規模で多様な人財の活用が重要となるため,グローバル人財マネジメント基盤の確立が不可欠となったのである。
中でも,日本においては世界基準とは異なる人基軸の人財マネジメントであり,日本国内の人財マネジメントを世界標準である職務基軸(ジョブ型)への変革がグローバルと一体化した業務遂行という点で,不可欠であった。いまにいたる日立製作所におけるジョブ型人財マネジメントの目的は,グローバル規模での社会イノベーション事業を支える人財マネジメント基盤の確立にあると言える。
まずは,上記の「グローバル人財戦略」に基づき,整備されたグローバル人財マネジメント基盤についていくつか紹介する。

2‒1 グローバル人財データベースを構築

グローバル規模で多様な人財を最適な形で配置・異動などを行うためには,グループ・グローバル企業内にどんな経験やスキルをもった人財がいるかを把握する必要がある。日立製作所がグローバル人財マネジメント基盤の構築で真っ先に行ったのが,2012年度に導入されたグローバル人財データベース(HCDB : Human Capital Data Base)であった。
データベース化の対象は,海外の一部直接員を除く,グローバル規模の日立グループ約25万人の従業員である。彼らの人財情報を統一フォーマット(氏名,所属,メールアドレス,職歴等)でデータベース化し,構築された。グローバル人財データベースには,「個別人財の把握と管理」と「人的リソース配分等のマクロ経営数値の把握」という2つの側面により構成されており,グローバル人財マネジメント施策立案の基礎情報に活用され,後述の2‒7「人財マネジメント統合プラットフォームで人財情報の見える化を実現」につながってきている。 

2‒2 個に合わせた育成重視のリーダーシップ開発 

「変化・変革をリードする人財」を「人選」し「創り込む」を旗印に,2012年度から実施しているのが,日本人以外を含めた将来の経営幹部の選抜・育成プログラムであるグローバル・リーダーシップ・デベロプメント(GLD :Global Leadership Development)である。具体的には,日立グループ内のKP(Key Position)のうち,日立製作所本社のビジネスユニットCEO,主要グループ企業の社長など日立グループ全体の戦略・業績に影響が大きい約40~60ポジションを「KP+」として選定。GT(Global Talent)のうち「KP+」の候補者を「GT+」として選抜・育成するというものだ。

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