イノベーションを生み出す秘訣! アイデアの種は知財で守り育てよう
イノベーションと知的財産
近年、新たな価値の創造や技術革新が加速しており、大企業から中小企業、ベンチャー、スタートアップに至るまで新規事業の創出が不可欠な要素となっています。市場の変動やテクノロジーの進化、さらには消費者の意識の変化は、事業の生き残りそのものに深く関わる大きな影響を及ぼしているといえるでしょう。このような時代の中で、組織の成長と継続的な成功を追求するためには、未来を見据え、その未来から新たなアイデアを引き出すことが必須となります。
では、どのようにしてその「未来」を予測し、その中からビジネスチャンスを見つけ出すことができるのでしょうか。ここで、未来を予測する中で得られた「ふわっとしたアイデア」、具体的には実際に製品やサービスの販売が開始される前の段階で考え出された着想的アイデアを具体的なビジネスに落とし込むことが重要になってきます。
ふわっとしたアイデアを形にする際、企業の大きな武器となるのが知的財産(以下、知財ともいいます)です。特許権、意匠権、商標権、著作権などの知的財産権は、アイデアを保護し、競争優位性を獲得するための強力なツールとなります。特に新規事業の創出においては、知財を積極的に活用することで、イノベーションを促進し、ビジネスチャンスを最大限に伸ばすことが可能となります。
アイデア出しのポイント
新しいビジネスモデルの基となる新規事業のアイデアをどのようにして出せばよいのでしょうか。本書でご紹介しているのは、代表的な10のアイデア出しの方法に、
加えて、すでに公開されている特許情報を活用してアイデア出しを行う方法です。
特許情報は、技術的な発明やアイデアが詳細に記載されているため、その内容を解析・活用することで新しいビジネスチャンスを見つけ出すことが可能となります。
特許情報は、技術的な知見や市場の動向を網羅的に知るための貴重な情報源となります。この情報を適切に活用することで、新しいビジネスのアイデアを効果的に生み出すことができるようになります。
以下では、この方法を用いたアイデア出しの具体例をご紹介しましょう。
特許情報を活用して新規事業のアイデア出しを行うには
本書でも詳しく紹介していますが、広島で特許事務所を開業している弁理士の松本文彦さんは、日本の中小企業やスタートアップの間でも、すでに公開されている他社の特許公開公報を活用することにより自社の製品やサービスの開発をスムーズに進めることを推奨しています。
日本特許庁に出願(申請)されて公開された特許公開公報は、独立行政法人工業所有権情報・研修館により運営されている特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)に掲載されています。
松本さんは、Fタームの各テーマのテーマ名やカバー範囲等が記載されているFタームリストを用いた開発支援方法を提案しています。Fタームは、日本特許庁が独自に開発した特許分類であり、特定の技術分野に関する特許公開公報を迅速かつ効果的に検索するための手段として重要な役割を果たしています。Fタームリストを用いた開発支援方法の詳細についてはぜひ本書をご覧ください。
自社の特許情報から新たなアイデアを妄想する
新たなアイデアを創出するにあたり、参考になるのは他社の特許情報に限定されません。本書でも詳しく紹介していますが、株式会社カプコンと知財図鑑は「妄想」という共通点からコラボレーションをスタートしました。
まず両社が取り組んだのは、カプコンが所有する特許から妄想大喜利でアイデアを拡張することです。
妄想大喜利とは、特許情報をベースとして、社会課題と妄想から両者のメンバーが様々なアイデアを自由な発想で次々と生み出すことをいいます。そして、その中から特許性があるアイデアを抽出するとともに、このアイデアが解決する社会課題を妄想します。さらに、社会課題の解決を目標にし、妄想を再分解、再構築します。また、この段階で新たな妄想も追加します。その後、事業としてインパクトがでるように具体例を調整したり、複数の妄想を上位概念化やグループ化して発明として整理したりします。
ここで、妄想から特許性がある発明を仕上げる工程では、特許の専門家である知的財産部の知識が役に立ちます。発明として一定の形となった後は、この新たな発明について両社が共同で特許出願を行うとともに知財図鑑のウェブサイトにも発明の概要を掲載します。
カプコンと知財図鑑が共創することにより生まれたアイデアの1つに「里帰りブーストシステム」があります。「里帰りブーストシステム」とは、ゲームプレイヤーや観客などの支援者が自分に縁のある地域を訪れると、ゲーム内容が変化したり進化するシステムのことをいい、プレイヤーや支援者の出身地など、関わりのあるエリアを訪問した人数に応じて、ゲームキャラクターが強化されたり、ゲームの演出が変化したりします。このシステムは、自分に縁ある地域でプレイするとゲーム進行が有利になる既存システムをベースに、より地方創生に貢献できるシステムとして発明されました。
このシステムのベースとなったのは、カプコンが元々特許出願を行っていた特開2022-137905号公報に関する特許情報です。以前の特許出願では、eスポーツなどのコンピュータゲームにより地域活性化を図りたいというニーズに対し、プレイヤーまたはキャラクターと地域との関係に改善の余地があったという課題を解決するための技術が記載されていました。このような特許情報に対し、プレイヤーだけではなくこのプレイヤーを応援する応援者の出身地等の縁のある地域が一致することで、プレイヤーのパワーが漲ってくるという「里帰りブースト」という新たな概念を規定し、プレイヤーが地元でプレイするときに、地元の観戦者がたくさんいるとゲームで恩恵を受けたり演出が変わったりするというアイデアを創出しました。このようなアイデアが最終的に創出されるまでに、妄想大喜利により数多くのアイデアが生まれました。
さらに、妄想を特定の知財に紐付けてメディアで情報発信を行うとともに、デザイナーによって抽象的な発明をビジュアルに具現化することにより、多くの人に関心を持ってもらうとともに新たな共創相手を見つけることが可能になります。
知財を活用することによりふわっとしたアイデアを新規事業に結び付けよう
衰退途上国といわれる日本でも、イノベーションの火は消えておらず、新規事業の創出に向けて新しいアイデアが次から次へと生み出されていますが、そのアイデアがビジネスとして社会に実装され、世間の人々がその恩恵を享受するに至るまでには様々な高いハードルがあるのも事実です。これに対し、近年では新規事業を推進するにあたり知財を活用する事例が増えています。
新規事業やイノベーションの創出は容易なことではありませんが、知財戦略をしっかりと持つことで、多くのアイデアが具体的な形になると考えられます。
『ふわっとしたアイデアからはじめる新規事業を成功させる知財活用法』では、そのようなイノベーションを興そうとする個人や企業にとって、新規事業の元となるアイデアの創出方法や、生まれたアイデアを知財でどのように保護するかについて最新の事情を踏まえながら解説しております。バブル崩壊後の90年代初頭から現在までの日本経済の停滞は失われた30年と言われますが、日本の未来のためにも新たなイノベーションの社会実装によってより良い社会が到来することを願っています。
■書籍の購入はコチラ
■著者紹介
加島 広基(かしま・ひろもと)
日本橋知的財産総合事務所 代表弁理士。
1999年東京大学工学部卒業、2004年弁理士登録。2021年に日本橋知的財産総合事務所を設立し、現職に至る。
弁理士法人IPXの押谷昌宗弁理士と共同でYouTubeにて「知財実務オンライン」の配信を毎週行っており、知財コンテンツの情報発信や専門家コミュニティの形成に努める。
特許庁のI-OPEN PROJECTやIPAS事業に参画し、イノベーションを起こそうとする企業を知財面から支援。
近年はスタートアップ・ベンチャー企業等のIT・ソフトウェア系の特許出願業務や知財コンサル業務を精力的に行っており、2024年3月には数多くのITスタートアップ支援実績が評価され特許庁第5回IP BASE AWARD スタートアップ支援者部門の奨励賞を受賞した。