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【テルモ】 「キャリア自律」「適所適材」「成長支援」をコンセプトに新たな人事に挑戦―全管理職ポジションのジョブディスクリプションを全社員へ公開―

ジョブ型人事を導入する先進企業の賃金の考え方や人材開発がわかるケース
・日立製作所
・東京エレクトロン
・テルモ
・三菱マテリアル
・三菱ケミカル

執筆:須田敏子(青山学院大学ビジネススクール教授)

(注) 本記事は,中央経済社発行の書籍『ジョブ型・マーケット型人事と賃金決定』(須田敏子著)に収録されているケースをnoteの有料記事として販売するものです。

ジョブ型・マーケット型人事と賃金決定―人的資本経営・賃上げ・リスキリングを実現するマネジメント

1. 複合的ソリューション提案を目指す5か年成長戦略

1921年に北里柴三郎博士をはじめとする国内医学者たちが発起人となって創立された総合医療機器メーカーであるテルモは,現在,世界160か国以上の国・地域で活動を行い,海外売上比率が70%を超え,社員比率も海外が約80%と,グローバル化が進んだ企業である。
創立100周年を迎えた2021年12月には5か年成長戦略「GS26」を発表し,デバイス(医療機器)はこれからもテルモの中核的存在であるとしながらも,「デバイスからソリューションへ」とのビジョンを掲げ,医療従事者や製薬企業をはじめとしたビジネスパートナー,ひいては医療のエコシステム全体とより積極的に関わり,顧客と患者さんに即した課題を発見し,再定義し,複合的なソリューションの提案を目指している。
成長戦略実現のためには,「人財力」の強化がより重要となるとして,テルモでは,2022年4月から,管理職層に対する社員等級・報酬制度,管理職層・非管理職層に対する評価制度,社内公募を含む登用・昇格制度の改定などを行っている。本稿では,人事制度改定の目的と内容を紹介する。 

2. 新人事制度のコンセプトは「キャリア自律」「適所適材」「成長支援」

制度改定の内容に入る前に,新人事制度のコンセプトからみていく。新人事制度のコンセプトは「キャリア自律」「適所適材」「成長支援」である(図表1参照)。その根底にある考え方が,従来の会社主導のキャリア開発から,アソシエイト(社員)個人が主体となったキャリア自律への変化である。「自分のやりたい方向のキャリアを伸ばすということになれば,より一層努力するだろう。同時に,チャンスを勝ち取るためには,絶え間ない努力が必要」と,制度改定にあたった人事部HRビジネスパートナーの竹田敬治氏は語る。会社側が決めたキャリアルートよりも,社員が自ら選び取ったキャリアのほうが,社員のキャリア開発に対するモチベーションが向上することは,容易に理解できるところだ。そして,キャリア開発主体が社員個人へと変化するに伴い,会社の役割も社員個々人が主体的に描いたキャリア実現のための支援へと変化する。
もう1つ重要なのが,適所適材である。これは,キャリア自律と成長支援に密接に関連している。従来の日本型人事では,人に仕事を振り分ける適材適所が中心だったが,これではどのようなルートをとれば,あるいはどんな仕事を経験すれば,キャリアを開発できるのかが不明確で,「社員のキャリア自律」「自律したキャリアを会社が支援する」というテルモの新人事制度のコンセプトは実現しない。どんな“仕事” を経験すれば,自分が望むキャリアを実現できるかを具体的に知るためには,“仕事” の内容と仕事が求める人的要件を明確化する必要がある。このような認識から,テルモでは職務基準の人財マネジメント導入を決定した。「適材適所」ではなく「適所適材」を強調する姿勢は,ジョブ型人事への転換がキャリア自律と成長支援に不可欠なことを表しているだろう。

出所:労政時報 第4049号/23.1.13/1.27
出所:労政時報 第4049号/23.1.13/1.27

3. 管理職層対象に職務基準の社員等級を導入

3‒1 全管理職ポジションのジョブディスクリプションを全社員へ公開

キャリア自律の前提となるのは,テルモの社内にある職務の具体的内容と,個別職務が要求する人的要件の明確化である。だが,人事制度の改定以前に同社が導入していた職能資格等級では,個別職務に対する職務内容や人的要件が明確化されておらず,社員のキャリア自律を支える条件が十分に整っていなかった。そこで,個別職務の内容と人的要件が明確化されるジョブ型人事への転換が必要として,まず管理職層を対象に職務等級の導入が決定された。

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