有価証券報告書の提出期限延長で留意すべき「後発事象」の取扱い【2020年4月16日掲載記事アーカイブ】
提出期限の延長
2020年4月14日、金融庁は「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について」を公表した。その一部を抜粋すると以下のとおりである。
(注)執筆時点(2020年4月15日)で、有価証券報告書等の提出期限の延長に係る改正内閣府令は公布されていない。公布日以降に提出期限を迎える有価証券報告書および四半期報告書等から、一律に2020年9月末日までの延長が認められる予定であるので、改正内閣府令を確認していただきたい。なお、この延長措置を受けて、日本公認会計士協会から、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その3)」が公表されているため、参照されたい。
提出期限の延長に関する留意事項
有価証券報告書は、株主総会終了後に提出することが、実務慣行として強く残っている。この株主総会の開催時期に係る基本的な考え方については、別稿で解説する予定である。
さて、この有価証券報告書の提出期限の延長に関して、留意すべき事項として後発事象の取扱いがある。後発事象とは、決算日後に発生した会社の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす会計事象である。
後発事象は、財務諸表を修正すべき後発事象(修正後発事象)と財務諸表に注記すべき後発事象(開示後発事象)の2つに分類される。前者の修正後発事象は、実質的な原因が決算日時点ですでに存在しており、決算日後の事象の発生により、その状態がいっそう明白になった場合には、当期の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼすものとして財務諸表の修正が必要である。
後発事象の取扱いに関し、会社法による監査報告書の日付が修正後発事象の実務的なカットオフデート(締切時点)となる。しかし、有価証券報告書の提出期限の延長に伴い、延長した提出日の一定期間の前の時点まで、修正後発事象に該当する事項があるか否か、該当事項がある場合には、有価証券報告書の数値を変更する必要があるかどうかについて判断しなければならない。
有価証券報告書の数値が修正された場合、計算書類が提出される株主総会の期日と有価証券報告書の提出日とが大きく異なる場合において、財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの数値が計算書類と有価証券報告書とで大きく異なるケースも考えられる。このため、特に新年度以降、有価証券報告書の提出時点(実務的にはカットオフデート)までの期間における引当項目に係る見積要素の変動についても留意する必要がある。
筆者略歴
持永 勇一(もちなが・ゆういち)
公認会計士