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人的資本経営の中核をなす「エンゲージメント」とは?【著者インタビュー】

人材を資本としてとらえる人的資本経営が求められるなか、エンゲージメントというキーワードが注目されています。ただ、ニュースなどで目にする機会は増えたものの、具体的にどういうものなのかがよくわからない方も多いかと思います。
そこで、2023年10月に中央経済社より『中小企業も実践できる従業員エンゲージメントの教科書』を出版された株式会社ヒューマンブレークスルー代表取締役の志田貴史氏に、エンゲージメントの基本的なことから取り組み方まで、お話を伺いました。[編集部]


編集部:はじめに、志田さんのご経歴について教えてください。

大学卒業後、上場大手メーカーに入社し、その後、経営コンサルタント会社に転職をしました。そこで仕事をしているとき、同じ品質のコンサルティングを提供しているのに成果が出る企業と出ない企業の2通りに分かれることがありました。
その違いはどこにあるのかを私なりに現場で考えていたのですが、それはES(従業員満足度)やエンゲージメントの差なのではないかという考えに至りました。そこで、ES・エンゲージメントにフォーカスして企業支援をおこなっていきたいという思いで、2007年に株式会社ヒューマンブレークスルーを設立し、現在に至ります。

ES・エンゲージメントという考え方は当時もあって、そのコンサルティングをメニューの1つとして提供している大手コンサルティング会社もありましたが、ES・エンゲージメントに専門特化したコンサルティング会社は当社が日本初だと思います。創業して7~8年くらいは大企業のクライアントが多かったのですが、ES・エンゲージメントの考え方が徐々に浸透していくにつれて、中小企業を支援する機会も増えてきています。

編集部:なぜいま、エンゲージメントが注目されているのですか?

大きく、2つの理由・背景があると思っています。

1つは、労働環境が激変し、人手余りの時代から人手不足の時代に一気に変わったことです。これは、これまで企業は顧客に選ばれる努力だけをしていれば何とかなっていたのですが、いまは、顧客だけでなく、従業員にも選ばれるための努力をしなければいけない経営環境になっていることを意味します。したがって、会社と従業員の関係性をいかに良好なものにしていくか、そのためにはどういう視点・着眼点が必要なのかということが、エンゲージメントの概念につながっていくということです。

もう1つは、「人的資本」というキーワードです。これは従業員のもつ能力を資本とみなす考え方で、欧米から始まったものですが、日本においても徐々に普及してきて、人への投資を強化していこうという国の政策のもと、人的資本経営が推進されるようになってきました。そしてこの人的資本の中核をなすのが、従業員エンゲージメントなのです。

編集部:エンゲージメントとは何かについて具体的に教えてください。

「エンゲージメント」という言葉は、マーケティングの世界でも使われていますし、投資の世界でも使われていますが、本書における「エンゲージメント」は、「組織への愛着を伴った働きがい」という表現の仕方が一番しっくりくると思います。つまり、いまの仕事にやりがいを感じながら、所属する組織に対してもポジティブな感情をもっていることがエンゲージメントであり、エンゲージメントが高い状態ということです。

働きがいがあっても、組織への愛着がないと、将来離職に発展してしまうこともありますし、組織への愛着があっても、働きがいがないと、生産性は向上しません。したがって、エンゲージメントとは仕事と組織の両方にポジティブな感情をもたせること、という言い方もできるかと思います。

編集部:志田さんの前著のテーマはESでしたが(『顧客と会社を幸せにするES[社員満足]経営の鉄則』)、ESとエンゲージメントの違いは何ですか?

ESもエンゲージメントも、目指すべき方向性は同じだと考えています。ESが低いのにエンゲージメントは高いということはあり得ませんし、その逆もしかりです。
強いて違いをいえば、エンゲージメントはESよりも見るべき視点や対応すべき範囲が広いという点です。ですので、まずはESの向上から着手して、その後エンゲージメントの向上に着手するというステップでも全然問題はありません。エンゲージメントも、ネガティブな要因の改善はもちろんのこと、働きがいなどポジティブな要因の向上に注力する必要があります。 

エンゲージメントへのロードマップ

編集部:中小企業におけるエンゲージメントの向上は、まず何から始めればいいですか? また、必要な視点は何ですか?

会社のパーパスをきちんと明文化して社内に浸透させることから、まずは始めていただきたいですね。その次が、上司の方々が相応しい行動をとること。そして、自分がやってる仕事の価値がよくわからず、ただやらされている意識に陥ってしまっている従業員は多いと思いますので、改めて、自分たちの仕事の価値やバリュー、パーパスとのつながりなどをきちんと認識してもらうことが大切だと思います。

人手不足の現在、中小企業においても金銭報酬や福利厚生、待遇面は無視できませんが、大企業と比較して勝算は少ないのが実情です。また、それらがエンゲージメントを決定づけるわけでもありません。中小企業は、働きやすさで勝負するのではなく、働きがいで勝負していくという視点をもって、非金銭的な報酬で従業員をエンゲージメントしていく必要があると思います。

編集部:さいごに、本書の特長や活用方法について教えてください。

これまで16年間、10万人以上の働く人の声をもとに分析してきたエンゲージメントのメカニズムや効果的な調査方法を解説している点が特長です。そして、具体的に何をどうすればエンゲージメントが向上するのかについて、10社の企業実例で学ぶことができます。企業事例には、星野リゾート、チロルチョコ、モスフードサービスなどの誰もが知っている有名企業もあれば、身近な中小企業も取り上げています。10社に共通しているのは、やはり人を資本と見なそうとしていることです。

いまは、エンゲージメント調査を請け負ったり、システムを提供したりする会社が増えてきています。皆さんのなかには、そういった会社からアプローチがあったという方もいらっしゃるかと思います。問題は、エンゲージメント調査を実施したものの、その後、何をしたらいいのかがわからないという企業が非常に多いことです。当社のセミナーでもアンケートをとると、調査を実施したけれどその次のアクションがわからないという企業が8割近くにものぼります。原因究明であったり、具体的な施策の実行につなげていかないと、せっかくの調査が無駄になってしまいます。本書では、中小企業でも実践できる具体的な施策まで網羅していますので、ぜひご活用いただければと思います。 

著者プロフィール

志田 貴史(しだ・たかし)
1972年生まれ。福岡大学法学部卒業後、上場大手メーカー、経営コンサルタント会社を経て、2007年に「ES・エンゲージメント向上から経営の好循環サイクルをつくる」をテーマとしたコンサルティング事業展開のため、日本初となるES・エンゲージメントに専門特化したコンサルティング会社(株式会社ヒューマンブレークスルー)を設立し、代表取締役に就任する。
中小企業から大企業まで、さまざまな業種・業界での豊富なコンサルティング実績を持つ。これまで関わった支援企業は500社を超え、クライアント企業の従業員へ実施したアンケートの生声分析は10万人以上にのぼる。コンサルティング後に離職率1%、経常利益率10%超えを達成したクライアント企業は多数あり、日本全国で講演・セミナーも行い、これまでの受講者数は延べ6,000名を超える。


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