【イベント】『未定年図鑑』刊行記念トークイベント「定年対策、リスキリング、何をしたらいいの!?」|紀伊國屋書店新宿本店3Fアカデミック・ラウンジ
2023年6月16日、紀伊國屋書店新宿本店のアカデミック・ラウンジにて、『未定年図鑑』(中央経済社)の刊行を記念したトークイベントが開催されました。
イベントでは「定年対策、リスキリング、何をしたらいいの!?」と題して、著者の三嶋(原)浩子さんと同書に登場する内多勝康さんをお招きし、明るい「未定年」ライフを送るためのヒントをお話しいただきました。
本記事では、盛況だった同イベントの一部を抜粋してご紹介します。
※登壇者の所属は、すべて2023年6月時点のものです。
紀伊國屋書店「アカデミック・ラウンジ」とは?
紀伊國屋書店新宿本店3階に開設されたイベントスペースです。イベント・ブックフェアなどが随時開催されています。
定年対策、リスキリング、何をしたらいいの!?
三嶋(原)浩子(以下、三嶋(原)):
今日は、お越しいただいた皆さんに「未定年」を意識し、定年後への希望を感じてもらえるような時間になればと思います。
ご自身の「どう生きたいのか」という願望に気づき、未定年ライフについて考えていただければと思っています。
私は、博報堂のコピーライターとして、広告やCMの制作に携わっています。一方で、キャリアコンサルタントの国家資格を取っているので、皆さんにちょっとしたご提案ができるかなと思います。
「人生をクリエイティブしたい」という思いを抱いたことが、この資格を取ったきっかけです。シニアの人生はもちろんのこと、大学で非常勤講師をしているので、学生のキャリアに関する質問へ責任ある回答がしたいと思ったことも理由の一つです。
さて、それでは、ゲストの内多勝康さんをご紹介します。
内多さんのことをご存知の方、たくさんいらっしゃるのではないでしょうか。元々NHKのアナウンサーで「クローズアップ現代」のキャスターをされていました。
現在は、国立成育医療研究センターの医療型短期入所施設「もみじの家」ハウスマネージャーでいらっしゃいます。
内多さんの『53歳の新人—NHKアナウンサーだった僕の転職—』(新潮社)にめちゃくちゃグッときてしまって、突然取材依頼をお送りしたことが、私と内多さんの接点です。
「未定年」ってなに?
三嶋(原):
「未定年」という言葉は、博報堂のシニアビジネスフォースというプロジェクトのメンバーで発案した新しい言葉です。「未」は「いまだ」という意味であり、「未来」の「未」でもありますから、コアターゲットである40〜50代の方に、希望を感じてもらえるようにという思いも込めています。
人生100年時代を生き抜くためのセカンドキャリア・ネクストキャリアを社会に発信していく本プロジェクトの活動の一環として、『未定年図鑑』を刊行する運びとなりました。
本書では、未定年のロールモデル27名に取材をしています。
50代から自発的に行動してきた方もいれば、自分の行動が知らず知らずのうちに「未定年アクション」になっていたという方もいらっしゃいます。また、ちょっとした失敗例も紹介しています。
事例は多岐にわたりますが、お悩みジャンル別に道しるべを示していますので、「あ、これ自分だ」と感じる部分だけ、読んでいただくこともできる構成です。
生き方の軸を持つこと
三嶋(原):
さて、ここからは内多さんへのインタビューということで、「53歳の新人」となる決断をされた理由や背景・心境を伺いたいと思います。
医療型短期入所施設に「53歳の新人」として転職された背景をお聞かせください。
内多 勝康(以下、内多):
ありがとうございます。
先ほどお話があったように、絶対に転職してやろうと思ってNHKにいたわけではなく、振り返れば、知らず知らずのうちに、種まきをしていたんだと思います。
私は非常に恵まれていまして、充実したNHK人生を送ってきたわけですが、50歳を超えたころから、後進に道を譲るような感覚にシフトしていきました。組織に所属するサラリーマンですから、これは当然のことだと。残念な気持ちをお腹の中にしまい込みながら、このまま定年まで会社にいるのだろうと考えていたわけです。
そして、今となってはすごく運命的なものを感じる出来事ですが、「クローズアップ現代」の取材を通して、医療的なケアが必要なお子さんとそのご家族の状況を知る機会がありました。それ以降、問題意識はずっと持ち続けていたんです。
ただ、アナウンサーという職業は、次から次にいろんなデータを料理する必要がありますから、1つにこだわっているわけにはいかない。「定年後にあらためてこの問題と向き合おう」と半ば諦めていた頃に、ちょうど、医療型短期入所施設「もみじの家」が開設予定で、病院の外からハウスマネージャーをリクルートしたいと考えているという話が、耳に入ってきたんですね。
それまでは、自分のキャリアを終えるための準備といいますか、閉じていくような心境で仕事をしていたのですが、そのお話を聞いて、パッと開ける可能性があることを感じました。
もちろん、家族の理解や収入面など、ハードルはいくつかありましたが、パズルのピースがはまるような感覚があって、飛び込むことで、生きがいを仕事にできるようなそんな気がしたんです。
非常に厳しい現場ですから、そんな軽い気持ちで飛び込んではいけなかったと思い知ることにはなるのですが、決断してよかったと感じています。
三嶋(原):
今のお話で参考にできるポイントは2つあると思っていて、まず1つは、目の前にあるものに不機嫌な顔をせず向き合えば、人生の次のステップが見つかることもあるということ。そして、もう1つは、偶然が決める側面があるということですね。
決断してよかったということでしたが、挑戦した結果、どのようなものが得られたとお考えですか。
内多:
ものすごい達成感があります。医療ケアが必要なお子さんとそのご家族への社会的なサポートが足りていないということは、取材を通じて知っていたので、「もみじの家」の立ち上げによって喜んでくれる方がいるということは、当然はじめからわかっていたんですよね。
僕は一応社会福祉士という資格を持っていますが、看護師でも保育士でもありませんから、直接的なケアをすることはできません。事務的な仕事がメインにはなるわけですが、ご家族の出迎えをすることもあって。そのような時に「こういう施設を待ち望んでいました」という声が聞けると、それだけで、多少の勘違いがあることは自覚しながらも、自分が何か役に立てているという実感を日々得ることができるわけです。
まさに支援のど真ん中にある職場ですから、自分が何のために仕事をしていて、どのように人の役に立てるかということがわかりやすく、恵まれた職業だと感じています。
ただ、最初の1年間は、「転職してよかったです」と笑って言うことが難しかったです。
夢と希望を持って転職をしたわけですが、全く畑違いの仕事を始めたわけですから、スキルも何も持ち合わせていない。そして自分の隣ではうんと若い人が活躍していて。自分には何の能力もないと、日々思い知るわけですよね。
1年間の積み重ねで、ようやく余裕が出てきて。今では笑って、転職してよかったと言い切ることができます。
三嶋(原):
内多さんも決して、早期退職や転職それ自体を勧めているわけではないということですよね。
内多:
ええ。勤め上げるということの美徳があるとも、強く感じています。僕は逆に、それができなかった男ですから、それはまた、素晴らしいことだと思います。
三嶋(原):
内多さんは、生き方の軸・テーマをはっきりと持っていらしたから、それを実行するための手段として転職を選んだんですよね。
辞めるか辞めないか、ということを考えるのではなくて、自分が人生の中でどのような優先順位をつけるのかを考えるということが大事なんだと思います。
ここで、ご著書の『53歳の新人—NHKアナウンサーだった僕の転職—』にあった言葉をご紹介したいと思います。
「人生の見落とし点検」してみませんか
三嶋(原):
ここで、「人生の見落とし点検」表をお配りします。
人に言うからには自分もやってみようと思って、先ほど書き込んでみたところ、いろいろな出来事を思い出しました。苦い思い出だったり、ちょっとした経験だったり、意識して過去を思い返すことによって、それがヒント・指針になるんですよね。
ぜひ、5分程度で書き込んでみてください。
内多:
私も自分の経験を振り返ってみて、ある程度自分の感性や感覚に、正直に動いてみるというのも大事だったと感じました。その行動がどういう結果を生むのかっていうのは、その都度学習していくと。そういう習慣によって、今の自分があるんだろうと思います。
言ってしまえば、飛び込んでいって、ダメだったら、次に進めば良いわけですから。
ただ、年齢とともに足腰が弱って、行動力も次第に衰えていくわけですよね。大事な局面の時に、反射的にアクションを起こせるような体質や習慣を養っておくっていうことも、結構大事なことなんじゃないかなと、年を重ねた今、ますます思います。
三嶋(原):
反射神経、そして、学習を続けることが大事ですね。
過去の自分が今の自分を助けてくれるかもしれないし、今やってることがネクストステージの種になるということもあると思います。
気楽にかまえて、「未定年」アクションをやっていただければ幸いです。
そろそろお時間となりました。本日はありがとうございました。
『未定年図鑑』が気になる方はこちら!
登壇者略歴
三嶋(原)浩子(みしま(はら)・ひろこ)
博報堂 関西支社 CMプラナー/ディレクター/コピーライター/動画ディレクター。博報堂シニアビジネスフォース ディレクター。
大阪市立大学大学院 都市経営研究科・都市行政コース修了。
テレビCM・新聞広告・WEB動画制作で活躍する一方、高齢化社会において「シニアの人生をクリエイティブする」ため、キャリアコンサルタント(国家資格)を取得。
2019年からは非常勤講師として同志社女子大学 表象文化学部日本語日本文学科にて「コピーライティング」を担当。
広告クリエイターと大学講師、シニア研究、地方創生の「四刀流」で活動中。
内多 勝康(うちだ・かつやす)
元・NHKアナウンサー、国立成育医療研究センターもみじの家ハウスマネージャー。
1963年東京都生まれ。東京大学教育学部卒業後、アナウンサーとしてNHKに入局。16年3月にNHKを退職し、同年4月より国立成育医療研究センターの医療型短期入所施設「もみじの家」ハウスマネージャーに就任。
著書に『「医療的ケア」の必要な子どもたち 第二の人生を歩む元NHKアナウンサーの奮闘記』(ミネルヴァ書房)『53歳の新人—NHKアナウンサーだった僕の転職—』(新潮社)。
『未定年図鑑』では、未定年におけるロールモデルの一人として紹介されている。