【三菱マテリアル】 全社的組織改革CXの4つの経営改革の一翼を担うHRXで人事分野の抜本改革を進行中―“多様な人材” が,“属性に関わらず”“公正に処遇” される組織を目指す―
1. 全社的組織変革「CX(Corporate Transformation)」の一環としてHR機能を再構築
1990年に三菱金属と三菱鉱業セメントの合併により設立した三菱マテリアル。金属・資源循環事業,銅加工事業,電子材料事業,超硬製品事業,再生可能エネルギーなど幅広い事業ポートフォリオを有する同社は,大規模な事業ポートフォリオの見直しをはじめとする経営変革を進めてきた。
2023年発表の2023~2030年度中期経営戦略である「中期経営戦略2030」(以後,「中経2030」)において,前・中期経営戦略期間の2020~2022年度において事業ポートフォリオの最適化は概ね完了したとし,「中経2030」では「資源循環の拡大,高機能素材,製品供給の強化による成長」を目指している。
三菱マテリアルでは組織能力向上を目指し,2021年度から4つの経営改革を実行している。同社における組織能力向上の具体的方向性は組織適応力と統合力の向上であり,CX(Corporate Transformation),HRX(Human Resources Transformation),DX(Digital Transformation),業務効率化,の4つの経営改革によって,この目標を実現しようとしている。
このうち,CXは全社的な組織体制の変革であり,2022年4月に実施された。変革の方向は2つで,1つは「コーポレート」(本社機能)を,グループ戦略立案を行う「戦略本社」と,戦略本社で策定した戦略を具体的な施策・プログラムに落とし込む「プロフェッショナルCoE」(CoE:Center of Excellence)に分けることである。従来は,戦略立案と戦略の具体化・実行という役割が十分に純化していなかったとの問題認識から,組織を分けることで役割を明確化し,高度の戦略性と高度の専門性・効率性の実現を目的に実施された。人事領域で考えると,戦略本社人事戦略部とプロフェッショナルCoE人事部に組織が分離され,前者が策定した人事戦略に沿って,後者は人事の個別領域で高度の専門性をもって効率的に具体的な施策を立案・実行する。
もう1つの変革の方向性は「カンパニー」改革であり,以前からカンパニー制は導入されていたが,2022年4月に自己完結型の完全カンパニー制へと移行した。人事領域では,完全カンパニー制移行時に,各種人事施策の実行オーナーとしてカンパニー等の各部門にHRビジネスパートナー(以下,HRBP)のポジションが設置された。HRBPの設置によって各カンパニーの事業戦略を人事面から強力にサポートする体制となった。
2. 三菱マテリアルの人事機能の特色
人事領域のCXについて紹介したが,ここで三菱マテリアルにおけるコーポレートとカンパニーの人事機能に関する関係をみていきたい。書籍序章で国際比較調査を基に紹介したとおり,日本型人事の特色として集権的人事管理が指摘される中で,同社では,従来からコーポレートとカンパニーはそれぞれ独自に採用を行っており,カンパニーの人事権は強いものであった。新卒採用方式は職種別採用であり,コーポレートでは7つの職種別採用で,カンパニーでは営業と技術の2つの職種別採用であった。集権的人事管理では,戦略性・専門性はさほど高くなくても人事部門の存在はある程度認められる。だが,カンパニーが人事権を有する分権的人事管理になると,コーポレートの人事部門には戦略性・専門性が不可欠となる。「もともとカンパニーが人事権を持っており,コーポレートの人事部にカンパニーの人事権はなかった。だから,当社では以前から本社・人事部には戦略性や専門性がないとまずかった」と,人事企画室長の大澤清氏は三菱マテリアルの人事機能の状況を語る。そういった環境下,「人事系人材は人事およびその周辺領域を幅広くローテーションでまわり,人事のジェネラリストとしての知識・スキルが備わっていた」と,人事企画室・室長補佐の赤坂拓也氏は人事系人材の知識・スキルの状況を語る。日本企業にも人事プロパー的な育成を行う企業は多いが,同社の場合は少し状況が違うようだ。