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【三菱ケミカル】 「主体的なキャリア形成」「透明性のある処遇・報酬」「多様性への促進と支援」を柱に人事制度を改定―「キャリアのオーナーシップは個人へ」をキーワードに新たな人材マネジメントのあり方を追求―

ジョブ型人事を導入する先進企業の賃金の考え方や人材開発がわかるケース
・日立製作所
・東京エレクトロン
・テルモ
・三菱マテリアル
・三菱ケミカル

執筆:須田敏子(青山学院大学ビジネススクール教授)

(注) 本記事は,中央経済社発行の書籍『ジョブ型・マーケット型人事と賃金決定』(須田敏子著)に収録されているケースをnoteの有料記事として販売するものです。

ジョブ型・マーケット型人事と賃金決定―人的資本経営・賃上げ・リスキリングを実現するマネジメント

1. “組織内外の環境変化に対応できているか”との課題認識から人事制度を改定

三菱化学・三菱樹脂・三菱レイヨンの3社合併により,2017年4月に発足した三菱ケミカルは,合併時に統一した人事制度を導入した。その後,3年経過して課題も見えてきたことから,2021年4月に社員等級,処遇・報酬,評価,異動など幅広い分野の人事制度を改定した。本稿では,三菱ケミカルにおける人事制度改革を紹介する。
三菱ケミカルにおける人事制度改革の目的は,組織内外の変化への対応にある。外部環境の変化で同社が重視する変化は,1つは,「市場環境の変化・グローバル競争の激化」であり,もう1つは,「労働力人口の減少」である。これらの変化に対応して会社も変わらなければ生き残れない,というのが同社の認識だ。
この2つの変化の内容をみていくと「市場環境の変化・グローバル競争の激化」については,化学という地球環境に直結した業界に位置する三菱ケミカルにとってサーキュラーエコノミーへの転換など社会の仕組みを変えるような変化が,まさに同社を直撃している。他方,国内外でのM&Aなどにより,事業構造の変化のスピードも一層増してきている。さらに,ますます複雑化・高度化する顧客からの要求への短期間の対応も必須だ。そういった外部環境の変化の中で,従来の大量生産型のビジネスモデルから,付加価値提供型ビジネスへの転換が重要性を増している。
もう1つの「労働力人口の減少」については,2019年に出生数が90万人割れするなど,少子化が加速する中で,オペレーターの採用がこれまで以上に困難となることが予想され,女性やベテラン層の活用がより重要となっている。人材の採用・活用のための有効な人事戦略が求められるところだ。
組織の内部環境変化に関しては,「人材の流動化」と「(従業員)人材の多様化」が挙げられる。2つの変化のうち「人材の流動化」については,人材流動化が進んでいる中でキャリア採用も増えることが予想され,若い男性を採用して彼らが定年まで勤めあげることを前提とした従来の日本型の人事モデルは成り立たなくなっている。その結果は「(従業員)人材の多様化」した組織である。多様化の要因として性別・年齢を考えれば,これまではコア従業員層では必ずしもなかった,女性やベテラン層の比率が増し,重要性も増していくだろう。しかも,同性・同年代の中でも価値観や経験,キャリアなどの面での多様化が進展していく。男女ともに育児休暇を取得して,ワークライフバランスを取りながら働く時代となる。この変化は,管理職や総合職でも子育て中の時期などで転勤が難しくなる人も多くなることを意味しており,また,「人生100年時代」といわれる時代の中で介護も長期化し,仕事の継続が困難な人も増える。これまでとは異なり,社命があれば従うという環境ではなくなっているのである。
ある意味では「従業員全員が制約社員」と捉えるべきというのが,三菱ケミカルの認識だ。それを前提に,社内環境や仕組み,制度を作っていくことが必要で,そうでないと優秀な人材は確保できない,と同社は捉えている。Japan人事部労制グループ長の小野友軌氏は「従業員のチャレンジやイノベーションにつながる取組みを積極的に支援できているだろうか。年功的な処遇になっているのではないか。もしそうならば,魅力的な処遇の提示ができていないのではないか」と,三菱ケミカルが人事制度改革をスタートさせた問題認識を語る。 

2. 制度改定3つの柱で“会社と従業員が互いに選び,活かし,成長する” を目指す

新たに導入された制度では,会社としてのありたい姿として「会社と従業員が互いに選び,活かしあう関係,ともに成長していくカルチャー」を掲げている。そして,その実現に向け,「主体的なキャリア形成」「透明性のある処遇・報酬」「多様性への促進と支援」の3つの方針を制度改革の柱としている。

それぞれ内容についてみていく(図表1)。まず「主体的なキャリア形成」について。制度改定のキーワードとなっているのがチャレンジであり,これは成長やキャリアアップのためには,現状維持ではなく,現状を打破するチャレンジを促す,という意味だ。従業員が担う仕事も,今後はイノベーションや技術革新が中心となる。今までのように,与えられた仕事に取り組めばよい時代ではなくなっている。自分自身で職域を広げることで,自分の働く場所を守っていく。そして,会社はそれを支援する。こういう関係が成り立った時に,会社と従業員が,お互いに選び,活かしあう関係を構築し,ともに成長していくカルチャーが醸成される。主体的キャリア形成を実現する,1人ひとりが仕事を通じて自身のやりたいことを実現する。そのために必要な専門性や知識を自分の意思で習得していけるキャリア機会を会社は提供する。これが制度改定の目的の1つである。
2つ目が「透明性のある処遇・報酬」である。従来の日本型人事のように年齢・勤続年数・性別などの属性が処遇・報酬に影響を与えるのではなく,現在ついているポジションの市場価値や成果・業績によって処遇が決まっていく。この実現のため同社は,処遇・報酬の基本に「Pay for Job, Pay for Performance」を掲げている。

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