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新型コロナ危機下の決算業務をどう進めるべきか【2020年4月15日掲載記事アーカイブ】

この記事は、弊社緊急情報発信サイト『新型コロナ危機下のビジネス実務』において、2020年4月15日に掲載した記事のアーカイブです。
同サイトは、2020年から新型コロナウイルスの感染拡大を受け、社内有志で緊急的に立ち上げた情報発信サイトであり、サイトの趣旨に賛同いただいた公認会計士の持永勇一先生にご寄稿いただいた記事になります。当時、3月期決算企業が決算期を迎え、対応について悩んでいる企業が多かったところ、いち早くそのポイントをまとめていただきました。
なお、中央経済社note編集部としての情報発信を始めたことから、同サイトを近く閉鎖する予定のため、アーカイブ記事として公開いたします。

中央経済社note編集部

はじめに

世界各国での新型コロナウイルス感染症による混乱はいまだ収束しておらず、わが国の企業の事業活動や監査人の監査業務に関しても甚大な影響が出てきている。わが国の上場会社のうち決算日を3月末としている会社は約66%と非常に多い。これら3月末決算会社の期末決算業務の繁忙期に入った2020年4月7日に、新型コロナウイルス感染症に係る緊急事態宣言が発令され、一段と決算業務の困難さが増している。
決算日の集中が3月に次いで多いのが12月であり、12月決算会社(約11%)はすでに3月末までに株主総会まで終えている。しかし、3番目に多い2月決算会社(約6%)では、3月決算会社以上に期末決算業務が困難を極めており、株主総会の開催時期、有価証券報告書の提出時期についてぎりぎりの判断が求められている状況である。

関連する重要情報の提供

すでに2020年2月の段階より規制当局をはじめとする関連団体から、新型コロナウイルスへの対応に関する各種のお知らせが公表されている。ここでは、繁忙を極めている経理担当者および監査人に対し、必要と考えられる情報を整理して提供したい。なお、新型コロナウイルス感染症に関連する情報は、日本公認会計士協会のホームページに専用サイトが設けられており、重要な情報が網羅されているので有用である。

財務情報の提供、アカウンタビリティ

資本主義社会の根幹である信用経済の基礎として、とりわけ多くの利害関係者を有する上場企業による財政状態および経営成績に係る情報提供は非常に重要である。例えば、IOSCO(証券監督者国際機構)が2020年4月3日に公表した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生下における会計基準の適用に関するIOSCO声明」では、

「IOSCOの目的には投資家を保護し、公正かつ効率的で透明性の高い市場を維持し、システミックリスクに対処することが含まれている。会計基準の適用によって、投資家が情報に基づいて投資決定を行うための明確で、信頼でき、透明性のある有用な情報を発行体が提供することに帰着しなければならない」

IOSCO「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生下における会計基準の適用に関するIOSCO声明」(仮訳)

とのメッセージを発信している。
会計に関係する当事者の健康が第一であることは当然のことである。在宅勤務等の工夫をしながら、公共の利益を守ることに貢献できることを願う。

在宅勤務の環境整備

必要なデータのダウンロード

決算日到来以降一定期間の日数をおいて、業務システム系から決算に必要なデータを財務会計系システムにダウンロードする必要がある。具体的には、販売管理システムからの売上実績データ、債権管理システムからの期末債権残高・期中消込データ、および在庫管理システムからの期末残高データといった決算に不可欠なデータである。
こうしたデータのダウンロードについて、通常の場合、PCで処理できるデータ量ではなく、情報システム室などにおけるデータ処理が必要となる。よって、物理的な問題で在宅勤務は困難である。このため、感染リスクを最小限にとどめながら出社して作業を実施しているのが実態である。

PCおよびインターネット回線他

在宅勤務を行う場合、使用するPCについては、セキュリティ対策の観点から会社貸与のPCを使用することが望まれる。基本的に、会社のネットワークに接続が許可されるPCは、会社貸与のPCに限定されることが多い。しかし、チームメンバー全員の作業環境を確認し、PCが貸与されていないメンバーが存在する場合には分担する作業内容をあらかじめ決めておかなければならない。また、メールでデータをやり取りする場合についても、パスワードの設定やウイルススキャンの実施等の事務的な手続を事前に明確に定めておく必要がある。特に個人情報が含まれるデータに関しては、基本的にメールでやり取りするべきではない。
在宅勤務で業務を行うにしても、セキュリティ問題や個人情報保護法に抵触する事件を起こしてしまうと、会社のレピュテーションを著しく毀損させかねない。とりわけ今はそうした問題の解決を「対面で」行うことができない。それゆえ解決の難しさが増し、通常の何倍もの時間を要すことは想像に難くない。
また、最近では固定電話を使用しないことから、インターネット回線を敷設していない家庭もあり、PCをネットワークに接続できない場合がある。スマートフォンのテザリングによりPCのインターネット接続も可能であるが、ビジネス文書の容量は比較的大きいため、そのような場合にはポケットWi-Fiの利用が現実的である。
なお、外付けディスプレイやヘッドセット等の在宅勤務用のツールについては、すでに品切れで入荷待ちの状態にある。手持ちの付属品で当面しのぎながら、早めに注文することをお勧めする。決算業務はチームで分担しながら遂行する必要があるため、適時に十分なコミュニケーションを担当者間で取ることが重要である。また、全体の進捗管理を適時・適切に実施しないと、予定どおりに決算業務が進捗していない場合に、状況把握すら遅れてしまいかねない。

グループ会議のソフトウェア・アプリケーション

さらに、メールや電話によるコミュニケーションに加え、グループで会話(チャット)するための様々なソフトウェア・アプリケーションが供給されている。複数のメンバーで電話会議を進める場合に、音声がクリアかどうか、議論する議題や資料をメンバーで共有できるか等が、会議を効率的に進めるうえで非常に重要である。音声が途切れがちであったり、ノイズが大きかったりする状態で、何時間も電話会議を行うのは拷問に近い。グループ会議に関するソフトウェア・アプリケーションについては、すでに多くの会社で、1カ月以上の運用実績がある(もちろん、今般の危機以前に導入している会社もある)。これから導入予定の会社の方は、ぜひお勧めのソフトウェアやアプリケーションについて、エンドユーザーとしての感想を利用者に聞いてみるのが効率的である。

グループ会社での決算手続

海外子会社の状況把握

2020年3月末の時点で100カ国超の国において、全面的または部分的なロックダウン(都市封鎖)が実施されている。これらの多くの国では、住民の外出を制限し、お互いが密接しないように一定の距離を保つ「社会的距離」を採用して、感染防止に努めている。また、複数の国では、必要不可欠な外出を除き、ペナルティを科して住民の行動禁止や制限を実施しているため、経理担当者が会社に出勤できないような状況も実在しているのだ。4月8日に中国湖北省武漢ではロックダウンが解除されたが、いまだ多くの国で行動禁止や制限が継続されている。
さらに、各国・地域においては、日本からの渡航者や日本人に対して入国制限措置および入国後の行動制限措置がとられているため、経理人員が不足している海外子会社に対し、日本から決算業務の応援支援もできない。このため、海外子会社の決算業務を、現地において、しかも在宅勤務によって対応せざるを得ない(あるいは決算業務に必要な基礎データを準備させる必要がある)といった困難さがある。

海外子会社とのコミュニケーション

本稿公開時点ですでに2020年4月中旬になっているため、海外子会社は、親会社の連結財務諸表作成のための連結パッケージ資料を指示された期日までに提出するための作業で手一杯の状況にある。
例年の決算スケジュールであれば、東京証券取引所が定める「決算短信・四半期決算短信作成要領等」に次のような記載があるため、決算発表が早い会社では4月末、その他の会社で45日ルールとして5月中旬までに決算が終了する予定が組まれる。

「事業年度又は連結会計年度に係る決算については、遅くとも決算期末後45日(45日目が休日である場合は、翌営業日)以内に内容のとりまとめを行い、その開示を行うことが適当であり、決算期末後30日以内(期末が月末である場合は、翌月内)の開示が、より望ましいものと考えられます。」

東京証券取引所「決算短信・四半期決算短信作成要領等」

しかし、今回、新型コロナウイルス対応として「45日の慣行にとらわれず、確定次第の開示を」として柔軟な対応を認めている。決算業務の締切日の設定は、親会社で事前にシミュレーションを実施する必要があることは別にして、親会社および子会社における実務的・具体的な困難さが判明した時点で、最終的に検討すべきであろう。
また、親会社の経理担当者は、連結対象となる国内外の子会社の経営者および経理担当者と密接なコミュニケーションを取りながら、連結決算業務を進める必要がある。また、固定資産の減損、繰延税金資産の回収可能性、および引当金の見積項目に関しては、会計上、高度な判断を要するため、現地監査人が関与している場合には、より早いタイミング(同時並行では遅い)で十分なコミュニケーションを取ることも忘れてはならない。不確実な経済環境下で最善の見積りを実施することは非常に高度な判断を伴うため、親会社に連結パッケージを提出した後で、現地の監査人に否定されると非常にタフな交渉か、最悪、連結パッケージを修正しなければならない事態に陥るおそれがある。
さらに、親会社の監査人は、監査役等に説明する監査計画において、どのような子会社が重要な拠点に該当するのか、また、どのような科目について必要と考えられる監査手続を実施する予定なのか、について説明を行う。国内外の子会社の経営者および経理担当者とコミュニケーションを取るなかで、決算スケジュールを守ることが難しい事態が判明した場合には、速やかに監査人に説明し、協議することが大事である。

筆者略歴

持永 勇一(もちなが・ゆういち)
公認会計士


#中央経済社 #実務


 

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