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メタバースを収益化するためには?|【連載】メタバース・ビジネスの歩き方(第4回)

VR(仮想現実)よりもAR(拡張現実)技術が重要

メタバースについては、VR(Virtual Reality:仮想現実)を前提として議論されることが多いですが、前回(第3回)述べたように、現実世界との組み合わせや連携こそがメタバース・ビジネスの成功にとって大切になるという意味では、AR(Augmented Reality:拡張現実)という技術が重要視されていくのではないかと考えています。例えば、QRコードをARカメラで読み込むとカメラの画角の中にCGのキャラクターが現れて動き出すというような仕組みです。

昨今の現実世界をメタバース化するという試みでは、現実とAR技術を組み合わせて体験をより深めてもらうという仕掛けが多く行われています。日本橋では街中のアーティストのポスターなどにQRコードが埋め込まれており、スマートフォンのアプリで見ると絵が動き出すような仕掛けが施されています。京都の観光名所や福岡ドームもARを使った様々なメタバースの取組みがなされています。

ARの歴史は1968年にアメリカで開発されたヘッドマウントディスプレイにまでさかのぼることができますが、当時は3Dの映像を合成する技術やコンピューターの処理能力の不足などにより、使える場面が限られていました。一般に普及するのは2000年代のスマートフォンの普及以降となります。世界中で大ヒットしたPokémon GOでもAR技術が使われていますが、このゲームではQRコードを読み込むのではなく、スマホのGPS(Global Positioning System)機能から位置情報を取得して、ジオタグ(緯度・経度情報)に基づいてモンスターを出現させているようです。ほとんどのスマホにはGPSが標準で搭載されているため、設定によってはカメラで写真を撮るだけでもジオタグが写真(のデータ)に付与されてしまいます。

2009年には日本で開発された「セカイカメラ」というアプリが話題になりました。これはGPSの位置情報を活用することにより現実世界の特定の場所にエアタグという付箋を貼ることができ、他の人もエアタグが貼られた場所の説明を吹き出しのような形で見ることができるというものでした。非常に画期的なサービスでしたが、当時のスマートフォンではバッテリー容量を著しく消費することや、タグ情報の管理が行われていなかったことで有名観光地などの特定の場所に大量のタグが付いてしまって吹き出しが読みづらくなってしまうことや、そもそも無償でのサービス提供からマネタイズの手法が確立されていなかったこともあり、2014年にサービスは終了してしまいました。

UGCで持続的に顧客を満足させる仕組みを作る

ARでもメタバースでも、コンテンツの更新が今後の課題となると思います。コンテンツの作り込みには相応のコストと時間がかかりますが、ユーザーからすれば、同じ場所を二度目に訪れたときに得られる体験やコンテンツが同じであれば、また訪れたいとは思わなくなってしまうでしょう。飲食店であっても経営を支えているのは8割のリピーターと言われています。常連を集めるためには、何度も訪れたい魅力を備える必要があります。いつ行っても話しかけることができる友達がいる、いつも違う風景が見られる、新しいコンテンツが常に取り揃えられているなどの状態を作り出す必要があります。

そこで重要になってくるのは、UGC(User Generated Content)と呼ばれるユーザーからのコンテンツの投稿です。ユーザーが自ら新しい投稿を行っていくことで、コンテンツが無限に生成されていくため、訪れる度に新しい情報が増えている状態を作り出すことができます。YouTubeもFacebookもTikTokも、コンテンツはユーザーが作り出したもので、それを運営するGoogleや Meta、ByteDanceはそもそもコンテンツ制作会社ではありません。現在Metaはメタバース内のコンテンツ制作と、コンテンツを制作して投稿する場所やツールの提供という「運営側」と「制作側」の両面を行っていますが、どちらかといえば、コンテンツ制作ツールでユーザー自身が作ったNFTを自由に投稿できる便利さがメタバース成功のカギとも言えます。セカイカメラが画期的であったのは、ARとジオタグを活用しただけでなく、UGCを活用したところにもあります。

UGCの活用はコンテンツの充実だけでなく、ユーザー参加型によるコミュニティを形成することにも役立ちます。もちろん、コンテンツを投稿するユーザーは限られていますが、頻繁にコンテンツを投稿するコアなユーザーと、そのコアユーザーに対するファン層が出来上がり、ファン層の中にはさらにコアなファンが生まれて、その他ユーザーを巻き込んでいくといった具合で、成功するとユーザーが雪だるま式に増えていきます。運営側としては、健全なコミュニティを育成していくために様々な仕掛けが必要になります。まずはコンテンツを作りやすいツールや画面を提供し、コンテンツを供給したくなるイベントやキャンペーンの実施、また、ファン層を集めるためのイベントやSNSの仕掛け作りなど、コミュニティを醸成するためには運営側にも企画力が求められます。

UGCには様々な負の側面もあります。例えば著作権侵害、ヘイトや差別、公序良俗に反する表現などを事前にどのように対応すべきかを検討し、一定の基準をもって機能制限や削除などの措置をとる必要があります。既存のWEBサイトやSNSでは、AIなどを使ってそれらの対応をする技術も登場していますが、様々な表現が行われるメタバース空間の中で何をどのように規制していくのかは今後大きな問題となるでしょう。業界団体も多く立ち上がっていますので、業界としての今後の検討が注目されます。

プラットフォームビジネスの収益化ポイント

そもそも、メタバースをプラットフォームビジネスとして捉えた場合、大きく3つの収益化ポイントがあります(下図参照)。

【図】プラットフォームビジネスの収益機会

(出所)著者作成

1 プラットフォームやインフラそのものへの課金

ハードウェアやソフトウェアの購入費用、会員費用などが該当します。iPhoneやPlay Stationなどのハードウェアを購入するケースが一般的です。Metaの場合は、Meta QuestというVRゴーグルを購入することがHorizon(アプリ)やゲームなどサービスへの入り口となります。最近では、NFTで特定のメタバースへの参加ができる優待券を販売するケースや、Axie InfinityやSTEPNのように必要なアイテムを購入してもらうことで参加できるようにするパターンもあります。

2 コンテンツへの課金

音楽やアイテムなどコンテンツそのものへの課金です。無料で始められるオンラインゲームでは特別なアイテムや衣装などが追加で購入できるようになっています。現在ではゲームのクリアに必須な武器などよりも、ゲーム内容に関係ない衣装やアクセサリーを販売するほうがユーザーの印象が良いようです。また、通常のコンテンツ販売以外に当たりくじの要素(ガチャ)を組み込むことで、通常よりも多くの課金が期待されますが、射幸性を煽るなどの問題が指摘される場合があります。

3 ユーザーへの課金

プラットフォームへ訪れるユーザーの数が増えてくると、プラットフォームは広告媒体としての価値を持つようになります。デジタルメディアでは100万ダウンロードを突破することが1つの目安でしたが、最近ではキャンプや釣りなどニッチな市場でも大きな存在感を持つことが期待できれば100万人まで行かなくても広告媒体として高い評価を得られています。また、オンラインサロンやマッチングビジネスなど、プラットフォーム内のコミュニティに参加するための会費を別途必要とする場合もあります。

現在のメタバースの収益化に関する議論は、上記の①~③のうち、主に②の「コンテンツへの課金」に関するものが多く、特にNFTを用いてマネタイズしていくという議論が多く見受けられます。このメタバース・ビジネスについても、一般的なプラットフォームビジネスと同様に考えれば、入場に対する課金やコミュニティへの課金などまだまだ多くの収益化ポイントが考えられますが、現時点ではメタバースへの入場料や参加費を取っているケースはあまりないようです。最近のプラットフォームでは、初期のdemo版をプレイしてくれた人にNFTを無償で配布しておくことで、ゲームが流行すればそのNFTを2次流通市場で高く売れるようにする、といった初期の参加者(NFT所有者)がより応援したくなるような仕掛けを用いています。つまり、プレゼント配布キャンペーンで参加者を募り、ゲームをプレイするモチベーションを高めようとするケースが増えています。

まずは無償でユーザーを集めて体験してもらい、人が集まったらマネタイズなどを検討するビジネスモデルは「フリーミアム」と呼ばれていますが、そもそもフリーミアムというビジネスモデルは「プレミアム」という言葉と対になっており、有償のサービスへ誘導していくことを前提に、無償の期間のコストは広告媒体として収益を得て賄うという考え方です。プラットフォームの魅力を引き出すためには、この「プレミアム」のサービス設計をしっかり行うことが、非常に重要になってくるのではないでしょうか。なぜなら、そのような「プレミアム」なサービスは、企業にコンテンツだけに頼らない多様な収益機会をもたらすと同時に、お金を払ってでも得たい体験価値をユーザーに提供できるからです。

著者略歴

東海林 正賢(しょうじ・まさより)
Jazzy Business Consulting株式会社 代表取締役
一般社団法人オルタナティブデータ推進協議会 代表理事

新卒で外資系システムサービス会社へ入社し、新規事業開拓を担当。2015年にコンサルティング会社に転職。フィンテックに関する専門組織を立ち上げ、統括パートナーとして組織をリード。2021年に一般社団法人オルタナティブデータ推進協議会を立ち上げ、代表理事に就任(現任)。2022年に独立し、Jazzy Business Consulting株式会社を立ち上げ、代表取締役に就任(現任)。

バックナンバー

第1回 メタバースが経済をつくる
第2回 メタバースでイベントを開催したい!
第3回 Play to Earn事例で考えるメタバースの収益モデル

第5回はこちら