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【ひな形付】コロナ禍に伴うテレワーク導入時の社内規程作成と助成金申請

本記事は、2020年4月27日に中央経済社緊急情報発信サイト「新型コロナ危機下のビジネス実務」に掲載した記事のアーカイブです。
コロナ対策としてだけではなく、効率的な業務フロー整備や、健康で働きやすい職場環境整備としてのテレワーク導入を検討してみては。
【不安に感じる管理職必見!】コロナ禍に伴うテレワーク時の労務管理もあわせてご覧ください。

中央経済社note編集部

毎熊典子
毎熊社会保険労務士事務所代表 特定社会保険労務士

新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワーク助成金

新型コロナウイルス感染拡大防止措置として、政府による外出自粛要請が続く中で、事業の継続と従業員の安全の両立を図るため、急遽、テレワーク勤務制度を導入する企業は少なくないと思われる。かかる状況を踏まえ、新型コロナウイルス感染症対策としてテレワークを導入する中小企業主を対象とした時限的助成金(編注:現在は終了している)も設けられている。

働き方改革推進助成金

厚生労働省は、「働き方改革推進助成金」の特例コースとして、「新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース」を創設し、令和2年2月17日から同年5月31日までの期間に、テレワーク用通信機器(シンクライアントのパソコン等を含む)の導入・運用、就業規則・労使協定等の作成・変更、社労士等の外部専門家によるコンサルティングなど、助成対象となる事業を実施した中小企業主に対し、テレワークを行った労働者が1人以上いることを条件に、補助率1/2、上限額100万円の助成金を支給する。

(編注)「新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース」の募集はすべて終了しており、2022年度の働き方改革推進助成金については、「労働時間短縮・年休促進支援コース」、「勤務間インターバル導入コース」、「労働時間適正管理推進コース」(これ以外に「団体推進コース」もある)が募集されている。支給対象となる取組みの1つに「労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新」が挙げられており、「テレワーク機器が「労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新」に該当すれば支給対象となる。なお、その場合には、当該テレワーク機器が、通勤時間の回避のみならず、仕事そのものの労働能率を増進するものであることの明確で客観的な疎明が必要である。」とされている(厚生労働省「R04 働き方改革推進支援助成金Q&A(令和4年5月2日版)」Ⅳ-106)。

事業継続緊急(テレワーク)助成金

東京都も、令和2年3月6日から「事業継続緊急対策(テレワーク)助成金」の募集を開始しており、常時雇用する労働者が2名以上999名以下で、都内に本社または事業所を置く中小・中堅企業等を対象に、東京都が実施する「2020TDM推進プロジェクト」への参加を条件として、助成率10/10、上限額250万円の助成金を支給している。
テレワークを導入するに際のパソコン・タブレット等の機器の購入費および設置・設定にかかる作業費や保守費、機器のリース料、クラウドサービス等ツール利用料などが助成対象となっており、中小企業が利用しやすい内容となっている。申請期間は、令和2年3月6日から同年5月12日まで(締切日必着)で、申請書類の提出は郵送で行うこととされている。

(編注)「事業継続緊急(テレワーク)助成金」の募集はすでに終了しており、現在は、「テレワーク推進強化奨励金」、「テレワーク導入ハンズオン支援助成金」、「テレワーク促進助成金」の募集が行われている。

テレワーク勤務規程作成の必要性

これらの助成金は、申込期間が限定されており、助成金を受けようとする企業は、短期間で申請書類を整えて提出する必要がある(編注:2022年度に実施されている助成金については各々の募集要項等を確認されたい)。提出書類には、テレワークに関する事項を定めた就業規則も含まれており、就業規則の作成が労働基準法により義務づけられていない常時雇用する労働者数が10人未満の企業も、テレワーク勤務規程は提出しなければならない。

テレワーク勤務規程の作成にあたっては、日本テレワーク協会の「テレワーク勤務規程のひな形」(厚生労働省労働基準局「テレワークモデル就業規則〜作成の手引き〜」等を参考にすることが考えられるが、そもそも就業規則をもたない企業にとって、これらを参考にして規程を作成すること自体、ハードルが高いものと思われる。外部専門家のコンサルティングを受けて作成することも考えられるが、とりあえずの対応として、次のひな形のような最低限の事項を定めた社内規程を作成することもよいと思われる。

【就業規則のない企業も利用可能な「テレワーク勤務規程」(ひな形)】

【テレワーク勤務規程】
第1条(目的)
 この規程は、情報通信技術を利用した事業場外勤務の円滑な遂行のために必要な事項を定めるものである。
第2条(定義)
 この規程において、「テレワーク勤務」とは、情報通信技術を利用して事業場外において、業務に従事することをいい、テレワーク勤務を行う者を「テレワーク勤務者」という。
第3条(適用対象者)
1 テレワーク勤務の適用対象者は、テレワーク勤務を希望する者のうち、会社の承認を得た者とする。ただし、次の各号に該当する者については、テレワーク勤務を認めない場合がある。
(1)採用後間もなく、自律的に業務を遂行することが難しいと認められる者
(2)情報通信機器等の操作に不慣れな者
(3)職務内容がテレワーク勤務に適さない者
(4)会社が不適当と認めた者
2 会社は、天災事変、交通障害、感染症の流行その他の事情により、テレワーク勤務を実施することが適切であると判断したときは、全社員にテレワーク勤務を命じることができる。
第4条(申請手続)
1 テレワーク勤務を希望する者は、上長の許可を得るものとする。
2 上長は、業務上その他の事由により、テレワーク勤務の許可の可否を判断し、また、テレワーク勤務の許可を取り消す場合がある。
第5条(就業場所)
 テレワーク勤務者の就業場所は、自宅または上長が許可する場所とする。
第6条(労働時間)
1 テレワーク勤務者の労働時間および休憩時間は、通常勤務の場合と同じとする。
2 テレワーク勤務者は、テレワーク勤務の開始時刻および終了時刻を、電話、電子メールその他上長が指示する方法により上長に連絡するものとする。
3 テレワーク勤務者が勤務中に、私用のために業務を一時中断した時間、および自宅と会社または取引先等との間を移動した場合の移動時間は、労働時間として扱わない。ただし、業務上の事由により勤務中に移動を命じられた場合は、当該移動に要する時間を労働時間として扱う。
4 テレワーク勤務者は、原則として、時間外労働、深夜労働および休日労働を行ってはならない。ただし、業務上必要と認められる場合は、上長への事前の申請に基づき、認められることがある。
第7条(服務規律)
1 テレワーク勤務者は、自律的かつ効率的に業務を遂行し、誠実に業務に専念するものとする。
2 テレワーク勤務者は、業務の進捗状況について、電話、電子メールその他上長が指示する方法により、適宜報告するものとする。
3 テレワーク勤務中に私用のために業務を一時中断する場合は、事前に上長に申請して、許可を得るものとする。ただし、やむを得ない事由により事前に申請することができない場合は、事後速やかに申し出るものとする。
4 テレワーク勤務者は、次の各号のいずれかに該当したときは、通常勤務に復帰するものとする。
 (1)許可を受けた期間が満了し、期間の更新がないとき
 (2)テレワーク勤務を行う理由が消滅したとき
 (3)通常勤務への復帰を命じられたとき
第8条(情報通信機器等の貸与)
1 会社は、業務の遂行に必要な情報通信機器等をテレワーク勤務者に対し貸与する。
2 テレワーク勤務者は、貸与された情報通信機器等に、会社の承認のないソフトウェアおよびアプリケーションをインストールしてはならない。
第9条(情報漏えいの防止)
1 テレワーク勤務者は、業務の遂行にあたり、情報漏えいの防止に努めるものとする。
2 業務に必要な機器、資料その他情報を会社から持ち出す場合は、あらかじめ上長の許可を得るものとし、持ち出した機器、資料その他情報を厳重に管理するものとする。
第10条(費用負担)
1 テレワーク勤務の実施時に発生する通信費、郵便費、事務用品にかかる費用その他会社が認めた費用は、会社の負担とする。なお、請求可能な費用の範囲は、別途定める。
2 テレワーク勤務者は、費用の立替払いをした場合は、明細の記載がある領収書等を会社に提出し、精算する。
第11条(連絡体制)
1 テレワーク勤務実施時に事故等が発生した場合、テレワーク勤務者は、直ちに上長に連絡するものとする。なお、上長の不在時は、上長があらかじめ指定した代理者に連絡するものとする。
2 緊急事態発生時におけるテレワーク勤務者への連絡は、上長または上長が指名した者が行うものとする。なお、テレワーク勤務者は、不測の事態が発生した場合の連絡に備えて、複数の連絡方法を会社に届け出ておくものとする。
第12条(安全衛生・災害補償)
1 会社は、テレワーク勤務者の安全衛生の確保および改善を図るため、必要な措置を講じるものとする。
2 テレワーク勤務者は、安全衛生の関する法令を遵守し、労働災害の防止に努めるものとする。
附則 この規程は、令和2年○月○日より施行する。

上記のひな形(Wordファイル)は下記からダウンロードできます。

事態収束後におけるテレワーク勤務の継続運用の意義

新型コロナウイルス感染症対策として、半ば見切り発車でテレワーク勤務を始めた企業では、「やってみたら、意外とできた」と感じる一方で、テレワーク勤務に伴う課題も見えたのではないかと思われる。急遽導入した制度であっても、この先において継続的に運用することで、オリンピック・パラリンピック開催時における対応や、今後発生しうる天災事変や交通障害等の発生時におけるBCP(事業継続計画)対策として活用できる。また、テレワーク勤務を行いやすい環境を整えることで、労働生産性を向上させつつ、社員のワーク・ライフ・バランスを向上させることが可能になると思われる。

「災い転じて福と為す」。日本はこれまで、大企業のテレワーク導入率が50%を超える勢いで伸びる一方で、中小企業の導入率は10%前後にとどまっていたが、これを機会に、中小企業においてもテレワーク勤務が普及し、業務効率を向上させるための業務フローの見直しや、健康で働きやすい職場環境の整備が進み、企業全体の活性化へとつながることが期待される。

著者紹介

毎熊 典子(まいくま・のりこ)
毎熊社会保険労務士事務所代表 特定社会保険労務士
慶應義塾大学法学部法律学科卒。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会認定上級リスクコンサルタント。東京商工会議所認定健康経営エキスパートアドバイザー。『これからはじめる在宅勤務制度』(中央経済社、2018)ほか、労務リスクマネジメントに関する執筆多数。