エリアマネジメントとは何か 税理士も知っておきたい地域と事業者の新しい関係 『税務弘報』2023年11月号
企画概要
税理士にとって,クライアントのビジネスのあり方は気になるもの。そしてビジネスは,地域との関わりを抜きには語れません。今回注目する「エリアマネジメント」は,民間を主体として「まち」や「住宅地」を持続発展させようという取組みです。その特徴,さらに,エリアマネジメント組織の法人としての特色を知っておくことは,税務に役立つはず。
本企画では,東京都心の大丸有エリアのエリアマネジメントに携わる不動産鑑定士の大谷典之氏(三菱地所㈱在籍)に,エリアマネジメントとは何かを伺いました。
『税務弘報』2023年11月号掲載のインタビューを一部抜粋してご紹介します。
エリアマネジメントって知ってる?
エリアマネジメントの目的
編集部:「エリアマネジメント」とはどのような目的のもと,何を行うことですか。
大谷:「エリアマネジメント」とは,2000年頃から始まった取組みで,特定のエリアにおいて,その地域が抱える社会課題の解決やエリアの価値向上を目的として,その地域の民間が主導し,行政がそれを各種制度等で支援する,主にソフト面のまちづくりです。
エリアマネジメントは,ビジネス街・商業エリア・住宅地などのエリアによって多種多様な取組みがなされていますが,共通する目的や特徴は以下4つです。
都心のビジネス・商業が集積するエリアでは,事業者・地権者・テナント企業等が主体となり,多様な人々が関与してエリアの課題を解決する取組みです。具体的には以下の活動が挙げられます。
また住宅地では,住民が建築協定や地区計画等を活用して,良好な街並み景観を形成・維持し,広場や集会所等を管理する主体が,その資源を活用して,人々の活動を促進し生きがいを感じるコミュニティを形成したり,清掃活動等で美観維持・防犯を推進するような取組みがあります。
■エリアマネジメント組織の特徴
編集部:エリアマネジメントはどのような方々が主導するのですか。
大谷:エリマネ組織の主な組織体としては,「一般社団法人」が多く,それ以外にはNPO法人・株式会社・任意団体の形態が見られます。
エリアマネジメントの活動は先ほどお話ししたとおり,エリアの共益が目的であり,利益配分が目的ではありません。よって,事業継続に必要な利益確保に努めるものの,大半の取組みは非営利活動となります。よって,非営利と営利の活動が混在します。
ゆえに,どちらの活動も効率的に推進できる一般社団法人やNPO法人を法人格とするエリマネ組織が多くなっています。
Ligare(リガーレ)って知ってる?
■大手町・丸の内・有楽町のまちづくり
編集部:具体事例として,大谷様が携わられているエリアマネジメントについてお聞かせください。
大谷:私が携わっているのは,東京駅と皇居の間に広がる大手町・丸の内・有楽町エリア(大丸有エリア)におけるまちづくりです。大丸有エリアのまちづくりの特徴は大きく以下の2つです。
■まちづくりの歴史
編集部:このエリアのまちづくりが始まった経緯を教えてください。
大谷:大丸有エリアのまちづくりは,実は逆境から始まっています。
1988年,大丸有エリアの地権者の1社である三菱地所がエリアのオフィスビル全体を超高層化する「丸の内再開発計画(いわゆる丸の内マンハッタン計画)」を打ち出しました。しかし,当時は行政や他地権者達と協議する基盤がなかった時代であり,十分な意見交換やコンセンサスもない状態では限界がありました。この経験が大丸有エリアのまちづくり組織の出発点でした。
1社だけのまちづくりは限られています。まちの関係者全員でのまちづくり推進が重要との認識のもと,「大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会」(大丸有まちづくり協議会)が誕生しました。同協議会には,大丸有エリアに拠点を置く企業が参画し,都市政策・機能・運営・プロモーションなどを皆で考え,推進する組織です。
同協議会と併せて,官民連携の組織「大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり懇談会」も1996年に設立されました。千代田区・東京都・JR東日本・そして地権者約84社が所属する「大丸有まちづくり協議会」で構成され,官民一体でまちづくりの方向性を決めていく組織です。この組織で策定した「大手町・丸の内・有楽町地区まちづくりガイドライン」の下でまちづくりを進めています。
今でこそ大丸有エリアは,オフィスだけでなく商業・文化施設も充実し,毎週のように多様で魅力的なイベントが開催されるエリアとして定着してきましたが,20年前はオフィス中心で週末は閑散としたビジネス街でした。
そこから,このまちづくりガイドラインの下で現在の街に変化していきました。
■大丸有のエリアマネジメントを推進するリガーレとは
大谷:このように,最初に大丸有まちづくり協議会が誕生し,まちづくり懇談会という官民連携で方針を作る組織が出来上がりました。そして,まちづくりガイドラインの下でエリマネのアクションを実践する組織として,丸ビルの竣工と同じ時期に「大丸有エリアマネジメント協会」(この協会を「リガーレ」といいます)が設立されました。
リガーレ設立の目的は,「まちづくりを通じて,多様な人々の幸福度向上に貢献」するというものです。ESG・SDGsが普及する現在では珍しくないフレーズですが,貨幣経済が中心で共感経済という言葉もなかった20年前に策定されたことを考慮すると,非常に画期的なビジョンだと思われます。
(編集部注:インタビュー内容は,本欄掲載に伴い,一部編集を行っています。)
登壇者コメント
まちづくりは,建物や施設を整備するハード面だけでなく,
その中で人々が快適で創造性豊かに活動する為のサービスや機能を整備する
「ソフトのまちづくり」も同時に企画することがより重要になっています。
ソフトのまちづくりはディベロッパー・行政だけでなく,
我々個人でも参画が可能です。私の知人の税理士さんや会計士さんは,
地域で「子供向けの金融教室・キャリア教室」などを開催し,
自身の専門性を活かし社会課題を解決するコミュニティーを形成しています。
地域に根付き活気と魅力を与えている地元企業や商店街を日々支援されている税理士さんの中には,
すでに地域の様々な課題解決を支援されている方々も多いのではないでしょうか。
ソフトのまちづくり「エリアマネジメント」にご興味持たれた方は是非ご一読願います。
登壇者略歴
大谷 典之(おおたに のりゆき)
公益社団法人 東京都不動産鑑定士協会 理事
三菱地所株式会社 エリアマネジメント企画部 専任部長
不動産鑑定士
特定非営利活動法人大丸有エリアマネジメント協会(Ligare)事務局長,公益社団法人東京都不動産鑑定士協会理事,観光庁広域周遊観光インバウンド専門家,こどもみらい投資顧問代表不動産鑑定士などを務める。
編集部コメント
再開発により,複数のマンションがセットで建設される場面をご覧になったことはないでしょうか。そんなマンション内のコミュニティ,さらには地域・まち・事業者を一共同体として位置づけ,活性化を目指すというのも,エリアマネジメントのひとつの形です。本企画の発端は,本号特集「マンションの評価と問題」で某先生から伺った,そんなお話でした。
インタビューを通して,「お,このイベントは地域全体で盛り上げようとしているな」「あ,この街並みは一帯のお店が連携して作り出しているな」など,「地域」をより意識できるようになりました。個人や法人単位でお客様を持つことが多い税理士の皆様にとっても,そんな個人や法人が属しているコミュニティのあり方を知ることは,お仕事をする上でも有意義なはずです。
〈掲載号のご案内〉
『税務弘報』2023年11月号
発行日:2023/10/05
〈『税務弘報』のご案内〉
月刊誌『税務弘報』では,最新の税務問題をいち早く解説し,周辺知識を取り込んだ幅広い構成で解説しています。
バックナンバー・定期購読もご用意。ぜひご活用ください!
#中央経済社 #話題のテーマ #税務弘報 #税務 #税法 #会計 #税理士 #会計士 #エリアマネジメント #まちづくり #大丸有エリア