【大座談会】元国税審判官が集い語らう 審査請求の実態 『税務弘報』2023年12月号
目次
はじめに
『税務弘報』2023年12月号掲載の大座談会を,本誌を一部抜粋してご紹介します。各トークテーマの「前振り」に当たる部分を並べてみたので、気になるテーマがございましたら、ぜひ本誌をご覧ください。
企画概要
元国税審判官であり,現在も税務の最前線で活躍される6名の税理士や弁護士に,審査請求の最新の傾向や具体的に増えている事例などを語っていただき,税理士が知っておくべき「審査請求」の実態に迫るという企画です。そうした企画の雰囲気を紙の雑誌とは別の媒体でよりリアルにお伝えしたいという参加者、編集部の思いからお届けします。
それでは、内容の一部を紹介します
ご発言箇所で登壇者も紹介します
尾崎:今回のこの6人は,今,紹介があったように,それぞれ審判所に勤務しており,そのときから一緒に裁決や裁判例などを題材にした勉強会をしていました。退官後も継続的にこのメンバーで裁決や裁判例の検討会などを行っています。
今回は,そういったものから得られた知見を元国税審判官としての勤務経験なども踏まえ,読者の皆さんに還元できればということで,この座談会を企画させていただいています。
前半は,審査請求の実態について,あまり世の中に知られていない審判所や裁決といったものを紹介しつつ,われわれが今まで経験したことも踏まえながら話をしていきます。
後半は,重加算税の検討をしていきます。重加算税に係る総論的な議論を行い,その後,個別の重加算税の事案を取り上げて,検討をしていきます。実は重加算税事案というのは,審判所の取消裁決の中で大きなウェイトを占めていますので,そういったことの実例を紹介したいと思います。
■「取消率」が低いのはなぜ?
尾崎:よく「実際の取消率はどれくらいなのか?」とか「取消率自体が高いのか低いのか?」といった話がされると思います。
統計上の取消率については,全部認容だけでなく一部認容を含むと7%から10%ちょっと,そういった率になっています。
この率を高いとみるのか低いとみるのかというのは意見が分かれると思いますが,仮に低いとみたとき,それでは,なぜ取消率が低いのか,要は,納税者が負けて国税側が勝つのでしょうか。
取消率が低い理由はいくつか考えられると思いますが,この辺はどうでしょうか。
■取消率の数値は実態を表しているか?
北原:取消率が7%から10%前後という数値について,これをどう評価すべきは悩ましいと思いました。
審判官時代を振り返ると,結果として,取り消しまでは至らなかったけれども,審理の過程で合議体の意見が割れた事案や最後まで悩んだ事案も多くあったように思います。その点を踏まえると,潜在的には,審判所に上げて議論すべき事案は,まだまだあるのかなという感覚はあります。皆様はどうお考えですか。
■実質的な事件数は?
尾崎:取消率が実態を表しているか,ということとの関係で,そもそもこの統計のベースになった事件数のカウントの方法について確認しておきたいと思います。
統計では,年間の「処分件数」が2,000〜3,000件となっていますが,この「処分件数」という事件数のカウントの仕方自体が,実態をそのまま表しているか,という問題もあるように思います。国税審判官というのは定員が決まっているので,事件を担当する国税審判官の数(国税審判官約100人)から考えると,上記の事件数から計算すれば,1人の担当審判官が年間20〜30件担当していることになります。これはわれわれの経験に基づく実感にも合わないですよね。この点は皆さんどう思われますか。
■理由付記と納税者の「納得感」
小北:無理筋な審査請求が出されるのは,原処分の調査に丁寧さが欠けていたことが要因になっている場合もあります。
どう捉えるかは納税者のリテラシーにもよるのかと思いますが,税務調査で脅迫を受けたとか,反面調査をされて取引先の信用を失ったとか,事前に相談した内容と処分内容が違うとか,そういう原処分でこじれたがゆえに,その不満から審査請求に至るというケースも一定数あるのではないかなと思いますが、いかがでしょうか。
■認められる可能性が低い主張
山田:理由付記とか調査手続の違法を主張しても,裁判例の基準に照らして,結局,取り消される率が極めて低いということが,請求人側でどうも理解されていないようにも若干思います。
朝倉:特に「調査手続の違法」ですね。いろいろ不満があって,真剣に争っている方たちがいます。審判所でも裁判所でもほぼ取り消された例はないということを理解して,その上で争うならいいのですけれども。
安田:あとは,信義則違反ですね。調査担当者は打たないと言っていたのに更正処分を打たれたとか。
■重加算税の2類型(積極重加と非積極重加)
尾崎:審判所では重加算税の事案は件数的にも多いし,実際に取り消されているケースもそれなりに多いということがわかりました。
重加算税の判断には,基本的な大きな判断枠組みがあると思うので,まずはここを見ていきましょう。
■重加算税取消しの主役は「ことさら過少」
尾崎:重加算税の類型と取消率との関係はどうなのか,独自に集計した資料をベースに話をしていきましょう。
■そもそも「事実認定」とは
尾崎:今の話だと,結局,審査請求の実件数が年間●●件くらいという話がある中で,重加算税が争点として上がっている件数が1年平均で●●件くらいになるとすると,全体の裁決の中で●●割くらいの事案が重加算税関連だということになります。さらにその取消率は●●%ということになると,統計上は全体平均よりも●●●●●●。さらに,取消し判断の中では,●●●●のほうが取消しが多いということですね。
そうすると,審判所における審理調査の中でも,納税者がどういう行為をして,その結果,それが仮装隠蔽行為として認定できるかどうかという,事実認定が非常に大事になってくるということだと思います。
この事実認定ということについて,税務の現場でも本来はきちっと認識をしておく必要があると思うのですが,この点は弁護士の立場からしてどのように感じていますか。
■証拠のありか
安田:隠蔽・仮装の認定との関係では,立証面の検討も重要ですよね。例えば,資料の破棄が隠蔽・仮装行為に当たると認定するのにどのような証拠があればよいか,ということが問題になると思います。この点はいかがでしょうか。
■重加算税事案の個別検討
以下のテーマで個別事例を分析しました。
・具体事例① 隠蔽・仮装の程度
・具体事例② 普段と同じことをやっているか
・具体事例③ 質問応答記録書の信用性判断
・具体事例④ 納税者のリテラシー
・具体事例⑤ お尋ね文書の効力
・具体事例⑥ 納税者以外の行為者
(編集部注:インタビュー内容は,本欄掲載に伴い,一部編集を行っています。)
登壇者コメント
尾崎真司先生
「苦楽を共にした仲間」での,遠慮のない(?)自由闊達な意見交換は十分に読み応えがあります。経験者ならではの独自の視点も,きっと実務に携わる方々の参考になるのではないかと思います。後半の重加算税のパートは,重加算税に係るポイントが非常にコンパクトにまとめられています。これだけでも貴重な資料になるのではないかと思います。
朝倉雅彦先生
更正処分等を受けなければ至ることはない審査請求ですが,だからこそ「納税者の正当な権利利益」を守らなければならない場面で,いざというときには審査請求を活用する必要があります。今回の企画が,その「いざというとき」の参考となり,かつ,納得いく結論を得る一助になれば幸いです。
小北大樹先生
税理士には少し縁遠い租税争訟の世界。その入口にある審査請求の実態について,肩ひじを張らない議論が展開されていますので,気楽にご一読いただけます。本座談会の通奏低音は,共に審判官として真摯に事案に向き合った実体験と,多様な職種経歴の専門家を受け入れる風土が整っている審判所組織への一定の信頼感です。
北原尚志先生
メンバーの「ちゃんとした原稿なるのでしょうか(笑)」との発言に表れているように,楽しみと不安が交錯した座談会でしたが,「審査請求」や「国税審判官」の姿が垣間見える座談会になったと思います。元国税審判官ではあるものの,異なる経歴を持ったメンバーそれぞれの視点にも注目してご一読いただければと思います。
安田雄飛先生
国税審判官には,国税出身者のほか,税理士,公認会計士,弁護士出身者がおり,それぞれの専門性やバックグラウンドは活かしながら,元の出身とは離れた中立の立場を意識して議論しています。国税出身者から課税庁に厳しい意見が出ることもあれば,民間出身者から納税者に厳しい意見が出ることもあります。今回の座談会も,あえて当時と同じスタンスを意識して話してみましたので,審判所での議論の雰囲気を感じていただければ幸いです。
山田庸一先生
審判所で合議は「乗り降り自由」といわれます。各自が事案について自由に意見を述べ闊達に議論し,当初の意見に固執せず,他の意見が正しいと思えば乗り換えて,最終的に正しい結論に到達する,そんな経過を目指した標語でした。座談会からも雰囲気が伝わるのではないでしょうか。ご参考になれば幸いです。
編集部コメント
座談会はここ数年で最大規模,実に6名の先生による大企画です。当初は「え、6人っていける?」というのが正直な感想でしたが、さまざまな人のお力添えがあり、なんとか実現した企画でした。
うまくまとまるのかとちょっとした不安がありましたが,蓋を開けてみるとびっくり。話は膨らみつつも論点が明瞭で,それでいて熱のこもった収録となりました。先生によって意見を異にする場面もあり,審査請求の奥深さを感じます。ぜひご一読ください。
〈掲載号のご案内〉
『税務弘報』2023年12月号
発行日:2023/11/04
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