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利用規約における登録拒絶事由/ID・パスワード管理の条項例|【連載】ITサービスにおける「利用規約」作成のポイント(第5回)

今回は、①ITサービスにおける会員登録に関連して、「登録拒絶事由」に関する条項例を、また、②本誌連載第2回(2022年12月号)で取り扱った「本人以外の第三者がID・パスワードを利用する際の対応」に関連して、「ID・パスワードの管理」に関する条項例を、それぞれ解説します。


Ⅰ 登録拒絶事由

(1) 登録拒絶事由を利用規約に定めておく理由

会員登録が必要となるITサービスの利用規約においては、以下のような「登録拒絶事由」を定めておくべきと考えられます。

登録拒絶事由の条項例

第○条(登録拒絶事由)
当社は、登録希望者が次の各号のいずれかに該当する場合には、利用登録を拒否することができます。
(1) 登録希望者が過去に本規約に違反したことその他の事由により、当社運営のサービスにおける会員登録の取消し、利用停止その他の処分を受けたことがある場合
(2) 本サービスを利用するために当社に提供した情報の全部又は一部につき虚偽の記載、誤記、記載漏れ等があった場合
(3) 登録希望者が未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人の場合において、親権者、成年後見人、保佐人、補助人の同意等が得られていない場合
(4) 本規約に違反するおそれがある場合
(5) 登録希望者が反社会的勢力等若しくはこれに準ずるものである場合、又は過去にこれらであった場合
(6) 登録希望者が支払手段として指定した方法について有効な認証がなされない場合



そもそも、サービス提供者と利用者との間の契約締結前、すなわち、会員登録前のタイミングでは、契約を締結するかどうかについて、契約締結の自由の原則のもと(民法521条1項)、当事者により広い裁量が認められています。そのため、事業者は、利用規約に登録拒絶事由の定めがない場合であっても、法的には、当該広い裁量に基づいて登録を拒絶することは可能と思われます。

もっとも、利用者側からすると、利用規約に登録拒絶事由の定めがなく、いかなる場合に登録が拒絶されるか(自分がサービス利用できるかどうか)わからないというのは、当該サービスの利用を躊躇させることにつながりかねません。したがって、実務上は、かかる事実上の観点から、利用規約に登録拒絶事由を明記することが多いと考えられます。

条項例における(1)(2)(4)(5)は、登録希望者の悪性や登録手続の不備に着目した登録拒絶事由であり、登録を認めることが不適切である典型的な類型について明示しているものとして、多くの利用規約に記載されています。

(3)は申込者の属性に着目した規定です。申込希望者が未成年者、成年被後見人、被保佐人または被補助人である場合には、事前に適切な同意を取得していないと、民法の規定により、会員契約が取り消されてしまうリスクがあります。

提供するサービスが有料または商品販売(ECサイト)型のサービスで、支払手段(口座引落し、クレジットカード)を登録することが必須なサービスである場合には、当該支払手段を持ち合わせていないか、利用停止処分等を受けている利用者を拒絶するため、(6)のような条項を設けることがあります。

なお、実際の規定の例としては、登録拒絶事由の判断について、サービス提供者に一定の裁量を認めるような文言(当該事由が発生する「おそれ」も拒絶事由に含めるような文言、当該事由が存在すると「当社が判断した場合」または「当社が合理的に判断した場合」を拒絶事由とするような文言等)が定められる場合もあります。また、バスケット条項として、以下のような条項を設けることもあります。

(7) 前各号のほか、利用登録を認めることが適当でないと当社が合理的に判断した場合

上記のとおり、法律上は、もともと事業者側に登録拒絶事由についての裁量があるので、当該裁量文言は、単に法律上の規律を確認的に規定するものと整理することができます。このようななかで、上記のような裁量文言をあえて規定する背景としては、合理的な疑いがある場合でも登録を拒絶することを示し、「当該拒絶事由に関して、事業者として厳しく対処していく」というメッセージを発するという面もあるでしょう。

他方で、裁量文言は拒絶事由の明確性を損なう側面もあるため、前述のとおり、サービスの利用を躊躇させてしまうことにもつながりかねません。そのため、事業者においては、提供するサービスの内容、登録拒絶事由に該当する事案が発生する具体的可能性、仮に発生した場合の自らへの影響、他方で、裁量文言を規定した場合の利用者からの見え方等に鑑み、裁量文言をあえて規定するかについて検討をするべきでしょう。

(2) 登録拒絶に関する実務上の対応

実務上、利用者からサービスの利用申込みを受ける場合、特にオンラインで申込みを受ける場合には、申込みを希望する利用者がどんな人物や企業なのか事前に判断し、登録拒絶事由の有無の判断を事業者自らが登録申込時点で行うことはきわめて困難です。

特に、不正会員登録の場合、不正アクセスとは異なり、表面上は通常の会員登録フローに則っていることが多く、不正会員登録の対策には、

・申込希望者の使用する端末情報の分析(同一IPアドレスからのアクセス分析、特定のメールドメインの排除)
・不正会員登録がされにくい登録フローの構築(本登録ページのメール送信、ロボットによる登録でないことの確認画面の設置等)

など、高度な対策が必要になります。

不正会員登録のリスクが高い類型のサービス(ブランド品販売やトレーディングカード販売、ソーシャルゲームなど)については、外部の不正検知サービスを利用することもあわせて検討すべきと考えられます。


Ⅱ ID・パスワードの管理

本誌連載第2回では、本人以外の第三者がID・パスワードを利用する際の事業者側の対応について解説しました。特に、事業者としては、第三者がID・パスワードを利用するいわゆるなりすましの問題に注意する必要があります。詳細は本誌連載第2回をあわせてご確認いただきたいと思いますが、事業者としては、第三者によってID・パスワードが冒用され、または登録ユーザーが第三者に対してID・パスワードを使用させたことによってサービス提供が実施された場合に、その効果を本人に帰属させることが重要になります。

ID・パスワード管理に関する条項例

第○条(ID・パスワードの管理)
1.利用者は、ID・パスワードの利用及び管理について、一切の責任を負うものとします。
2.利用者は、前項のID・パスワードを第三者に譲渡、承継、貸与、開示又は漏洩してはならず、いかなる場合でもID・パスワードを第三者に利用させてはならないものとします。
3.ID・パスワードを用いてなされた本サービスの利用は、当該ID・パスワードを管理すべき利用者による行為とみなします。また、これにより生じる責任は全て利用者が負うものとします。ただし、当社の故意又は過失による場合、当社からID・パスワードが漏洩し、これにより第三者がID・パスワードを利用した場合はこの限りではありません。

第1項および第2項は、第3項による利用者本人による行為であることのみなし規定の前提として、本人に対してID・パスワードの管理義務および第三者への提供禁止を定めています。

第3項は、IDおよびパスワードを用いてなされた行為について利用者本人の行為とみなすための規定です。このような条項を定めておくことで、サービス提供者としては、第三者によるなりすましの場合であっても、本人に効力を帰属する旨を主張しやすくなると考えられます。

もっとも、利用者が消費者である場合には、消費者契約法に注意する必要があります。消費者契約法10条では、法律上の規定以上に本人の義務を加重する場合であって、信義則(民法1条2項)に反して消費者の利益を一方的に害するものは無効であるとされています。

経済産業省の公表資料でも、以下のような条項は消費者契約法10条に反して無効となる可能性があるとされています。

・ID・パスワードにより事業者が本人確認をしさえすれば、事業者に帰責性がある場合でも本人に効果が帰属するとする条項
・事業者からID・パスワードが漏えいした事案の場合

(経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(2022年4月改訂版)68頁以下)

上記の例をふまえて、条項例にはただし書として、「ただし、当社の故意又は過失による場合、当社からID・パスワードが漏洩し、これにより第三者がID・パスワードを利用した場合はこの限りではありません。」を加えています。

                                      執筆担当:柿山佑人


筆者略歴

中山 茂(なかやま・しげる)
TMI総合法律事務所 弁護士
コンテンツ、IT業界の分野を中心に取り扱い、会社のガバナンス体制についても広くアドバイスを行う。著書として、『IT・インターネットの法律相談〔改訂版〕』(共著、青林書院、2020)など。

古西桜子(こにし・さくらこ)
TMI総合法律事務所 弁護士
知的財産、ITに関する法務を専門とし、ブランド管理やドメイン保護、エンターテイメント・メディア等の領域・紛争対応を扱う。著書として、『IT・インターネットの法律相談〔改訂版〕』(共著、青林書院、2020)など。

近藤僚子(こんどう・りょうこ)
TMI総合法律事務所 弁護士
IT業界の分野を中心に、訴訟、契約法務から個人情報保護法、労働法の分野まで広く取り扱う。

菅野邑斗(かんの・ゆうと)
TMI総合法律事務所 弁護士
倒産・事業再生、M&A法務、契約法務について広くアドバイスを行う。契約法務に係る著作も多数あり、『業務委託契約書作成のポイント〔第2版〕』(共著、中央経済社、2022)など。

丸山 駿(まるやま・しゅん)
TMI総合法律事務所 弁護士
IT・インターネット業界に関する業務を多く取り扱うほか、スポーツ団体を中心とした法人のガバナンス支援、個人情報関連、訴訟、契約法務等を広く取り扱う。近時の論稿として、「企業のためのメタバースビジネスインサイト:法の観点から見るメタバース 特商法編/利用規約編」(共著、PwC Japanグループウェブサイト、2022)など。

柿山佑人(かきやま・ゆうと)
TMI総合法律事務所 弁護士
倒産・事業再生、訴訟、契約法務、データ関連法務等を取り扱う。著書として、『プライバシーポリシー作成のポイント』(共著、中央経済社、2022)など。

飯田真弥(いいだ・しんや)
TMI総合法律事務所 弁護士
知的財産分野を専門とし、IT・インターネット業界のデータ関連法務、訴訟、契約法務等を多く取り扱う。著書として、『プライバシーポリシー作成のポイント』(共著、中央経済社、2022)など。

林 里奈(はやし・りな)
TMI総合法律事務所 弁護士
IT・インターネットビジネス分野の業務を多く取り扱うほか、ヘルスケア事業に関するサービス設計支援・契約法務等の業務も扱う。

バックナンバー

第1回 規約への同意・わかりやすい規約の実例
第2回 利用規約の変更の条項例、個別同意部分の変更
第3回 利用規約の一般条項、通知先の変更の条項例
第4回 利用規約における禁止事項の条項例


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