Exempt Employeeに対するボーナス、ストックオプションの検討ポイント|【連載】日本の法務担当者が知っておくべき アメリカの労働法制(第2回)
ビジネス法務(2022年9月号)の「日本の法務担当者が知っておくべきアメリカの労働法制」の「第2回 労働の対価」では、アメリカの労働法上、従業員はExempt Employee(適用除外従業員)とNon-exempt Employee(非適用除外従業員)に区別されること、さらには、前者のExempt Employeeに該当するための要件を解説しました。
本記事においては、Exempt Employeeの典型例であるCEO(Chief Executive Officer)、CFO(Chief Financial Officer)、COO(Chief Operation Officer)といったいわゆるC-Suiteの経営幹部やシニアマネージャーに支払う労働の対価について、検討するべきいくつかのポイントを解説します。
①ボーナス(Bonus)
Exempt Employeeに対するボーナスは、採用時に支払われるSign-on Bonus、労働契約の更新時に支払われるRetention Bonus、従業員のパフォーマンスに応じて支払われるPerformance-based Bonusなど、複数の種類がありえますが、ボーナスに関する制度設計を行う際には、一定の条件等を満たした場合には企業が必ず支払うべきもの、すなわち一定の場合には企業が支払義務を負うものとするのか、それとも、支払いの有無および金額は企業の裁量に委ねられるものとするのかを決定する必要があります。前者のような性質のボーナスは、Nondiscretionary Bonus(非裁量的ボーナス)と呼ばれるのに対し、後者のような性質のボーナスは、Discretionary Bonus(裁量的ボーナス)と呼ばれます。
労働契約の中にNondiscretionary Bonus(非裁量的ボーナス)を規定する場合には、一定の算式等に加え、支払いの有無および金額を判定する時期(たとえば、翌年の第一四半期の終了時点など)等を事前に詳細に合意したうえで、当該算式等に従って、ボーナスの有無および金額を機械的に決定することになります。なお、算式等に従って計算する場合であっても、一定の上限額をあらかじめ合意しておくことも可能です。
②ストックオプション(Stock Option)
金銭ではなく、株式等のエクイティを何らかの形で労働の対価に含めることも可能です。その一例として、ストックオプションがありますが、一口にストックオプションといっても、アメリカにおいては、Restricted Stock Option、Stock Appreciation Rights、Phantom Stockなどさまざまなタイプのものがありえます。
いずれのタイプであれ、対象となるエクイティの種類および数量に加え、採用後いつから権利を行使できるのか、また、どのような条件を満たした場合に権利を行使できるのかについて、あらかじめ制度設計をしたうえで、従業員との間で交渉を行う必要があります(このようにストックオプションの権利を確定させることをvesting(べスティング)と呼びます)。
なお、州法によっては、ストックオプションは労働の対価として取り扱わないこととされているなど、独自の規律がなされている場合があるため、ボーナスに比して、適用される州法の内容に留意する必要性が高く認められます。具体的には、労働の対価として取り扱われるか否かにより、クローバック条項(Clawback Provisions)(従業員が自主退職した場合や、企業が正当な理由により従業員との労働契約を終了させた場合に、すでに支払ったボーナスや、権利行使によりすでに取得したエクイティの返還等を義務づける条項)の有効性に影響が生じることになります。
筆者略歴
西出 智幸(Nishide Tomoyuki)
きっかわ法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士。1988年京都大学法学部卒業、1997年ミシガン大学ロースクール修了。
貞 嘉徳(Sada Yoshinori)
きっかわ法律事務所 弁護士。2003年同志社大学商学部卒業、12年ライデン大学ロースクール修了。
高田 翔行(Takada Shogo)
きっかわ法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士。2009年京都大学法学部卒業、11年同法科大学院修了、17年ニューヨーク大学ロースクール修了。
José M. Jara
Fox Rothschild LLP 弁護士。1992年Manhattan College(B.S.), 95年Benjamin N. Cardozo School of Law (J.D.). 2005年Georgetown University Law Center (LL.M. and Employee Benefits Law Certificate)。
Phillip H. Wang
Fox Rothschild LLP 弁護士。1997年University of Pennsylvania (History and Asian & Middle Eastern Studies). 2004年Benjamin N. Cardozo School of Law (J.D.).
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