営業秘密と秘密保持をめぐるトラブル予防の条項例|【連載】日本の法務担当者が知っておくべき アメリカの労働法制(第3回)
ビジネス法務(2022年10月号)の「日本の法務担当者が知っておくべきアメリカの労働法制」の「第3回 営業秘密と秘密保持」では、アメリカの連邦法上、営業秘密として保護されるのはどのような情報であるのか、また具体的にどのような保護が与えられ得るのかに加え、従業員による営業秘密の不正な開示または使用を防止するために考え得る方策を解説しました。
本記事においては、①自社の従業員が、会社との間で秘密保持義務を負わないままに業務を開始する事態を防止するために有効と考えられる方策と、②新たに採用した従業員(特に、中途採用の従業員)がかつての勤務先の営業秘密等を自社(新たな勤務先)に持ち込むことにより、自社が当該従業員のかつての勤務先との紛争に巻き込まれないようにするために有効と考えられる方策を、具体的な条項案とともに解説します。
①自社の従業員とのトラブル予防策
自社の従業員が、会社との間で秘密保持義務を負わないままに業務を開始した場合、その後、自社の営業秘密等の不正な開示や悪用を行っていることが判明した場合であっても、契約に基づく責任を追及することはできず、法令に基づく責任の追及を行うことができるにとどまります。誌面において解説したとおり、連邦法により営業秘密としての保護が与えられるためには、所定の要件を満たす必要があり、連邦法に基づく責任追及を行うことは必ずしも容易ではありません。
その一方、従業員との間の秘密保持契約においては、連邦法により保護される対象よりも広いものとして秘密情報を定義することが可能であるため、自社の営業秘密等の保護の充実のためには、雇用の開始に先立って、必ず秘密保持契約を締結しておくことが重要になります。
そのため、具体的には、以下のような条項を労働契約に含めることにより、労働契約の締結に加えて、従業員が秘密保持契約にも署名することが当該従業員の雇用の前提条件であり、秘密保持契約に署名しない限りは雇用の効力は生じず、当然のことながら、報酬、ボーナスや退職手当等の支払義務を負わないことを明記することが考えられます。
②新たに採用した従業員とのトラブル予防策
新たに採用した従業員(特に、中途採用の従業員)が、新たな勤務先において高いパフォーマンスを上げること等を目的として、かつての勤務先での就労時に入手した情報を不正に使用することは、日本のみならず、アメリカにおいてもしばしばみられます。そして、このような場合、当該従業員だけでなく、新たな勤務先も、かつての勤務先から訴訟を提起されるなどの紛争に巻き込まれる可能性があります。
このような事態の発生を防ぐため、従業員との間の秘密保持契約において、以下のような条項を規定することが考えられます。
筆者略歴
西出 智幸(Nishide Tomoyuki)
きっかわ法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士。1988年京都大学法学部卒業、1997年ミシガン大学ロースクール修了。
貞 嘉徳(Sada Yoshinori)
きっかわ法律事務所 弁護士。2003年同志社大学商学部卒業、12年ライデン大学ロースクール修了。
高田 翔行(Takada Shogo)
きっかわ法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士。2009年京都大学法学部卒業、11年同法科大学院修了、17年ニューヨーク大学ロースクール修了。
José M. Jara
Fox Rothschild LLP 弁護士。1992年Manhattan College(B.S.), 95年Benjamin N. Cardozo School of Law (J.D.). 2005年Georgetown University Law Center (LL.M. and Employee Benefits Law Certificate)。
Phillip H. Wang
Fox Rothschild LLP 弁護士。1997年University of Pennsylvania (History and Asian & Middle Eastern Studies). 2004年Benjamin N. Cardozo School of Law (J.D.).
バックナンバー
第1回 アメリカの労働契約に存在する2つの類型
第2回 Exempt Employeeに対するボーナス、ストックオプションの検討ポイント
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