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「タダでもいいから手放したい」不動産が増加 『税務弘報』2023年10月号 空き家放棄問題の実態


企画概要

空き家の相続や売買の場面では,税理士はさまざまな問題に直面します。近年は,「放棄したくてもできない」「タダでも売れない」という不動産が増加し,その処理は一筋縄ではいきません。そこで,「不動産有償引取りサービス」という独特のサービスを展開し,多種多様な不動産の買取り,管理を行っている溝口先生に,現代社会が直面する空き家問題の実態をインタビューしました。
本企画は『税務弘報』2023年10月号特別企画掲載のインタビューを一部抜粋してご紹介します。

特別企画の紹介

本企画のインタビューを掲載する前に、特別企画【管理しにくい建物をどう処理する? 空き家対応の最新事情】の全体像をお知らせしておきましょう。

特別企画のねらい

増加の一途をたどる空き家。本企画では近年特に問題になっているポイントを4つ提示します。まずは本年6月に公布された改正「空き家対策特別措置法」を確認し,税理士に直結する税務をシチュエーション別に整理。所在不明の共有者がいた場合の対応は,相続案件が増える中で気になるところ。さらに,「放棄したくてもできない」という新たなトラブルにも切り込みます。

特別企画の柱立て

① 空き家問題の現状と空き家対策特別措置法改正
~地方公共団体による空き家管理対策の強化
(羽柴研吾 弁護士法人東町法律事務所 弁護士)
② 相続・譲渡・賃貸・保有の場面別の税務
~特例の要件などを事前に把握して,早めに方向性を決めるべし
(藤井幹久 マルイシ税理士法人 税理士)
③ 所在不明の共有者がいる場合の共有の解消
~令和5年4月施行改正民法で円滑化した対応まで確認
(原子忠之 司法書士法人・行政書士法人ひびきグループ 司法書士・行政書士)
④ 【インタビュー】空き家放棄問題の実態
~「タダでもいいから手放したい」不動産が増加
(溝口喜郎 やまねこ不動産株式会社 宅地建物取引士)

【インタビュー】空き家放棄問題に迫る?


■負担になる空き家

編集部:「売りたくても売れない」「放棄したくても放棄できない」不動産が出現するのはなぜですか。

溝口:少子高齢化に伴う人口減少が最も根本的な原因だと思います。そもそも日本は国土の3分の2が山林といわれています。人口が多く土地が足りない時代にはそういったところでも利用方法がありましたが,人口が減少してくると,不便な土地をあえて利用するメリットがなくなり,結果,「タダでも売れない」不動産が多数生まれることになりました。

また,山林だけでなく,市街化区域においても同様の事態が発生しています。こちらも需要の低下が一番の原因ですが,規制の強化も関係しています。

数十年前に建物を建てられた土地が,その後の建築基準法等の改正により,そのままの状態では新たに建物を建てられなくなっています。

端的な例でいうと,擁壁が現在の建築基準法に合致しないケースです。現在も多く残る石垣で擁壁をうった土地などに建物を建てようとすると,数百万円〜1,000万円以上をかけて擁壁工事を行わなければなりません。擁壁工事まで考えると,土地の価値が実質的にマイナスになることもあります。買ったとたん損をする土地ですので,当然需要はありません。

編集部:なぜ空き家が増えているのですか。

溝口:上述の理由から山間部,都市部問わず空き家が増えています。空き家となるのは相続した家がほとんどです。

典型的な例は,東京で住む人が,北海道の実家を相続したというケースです。

もう北海道へ帰ることはないため,まずは売却を考え地元の不動産会社に相談に行き,そこでまったく需要がないということを知ります。多くの人はここでストップします。というのも,空き家の解体には当然お金がかかり,しかも解体したところでその土地が売れるわけでもないからです。さらに,建物を解体してしまうと土地の固定資産税が上がってしまいます。

こうした理由で,全国に空き家が増え続けています。

■「負動産」の要因

編集部:空き家の所有者が悩む「税金」や「お金」の問題にはどのようなものがありますか。

溝口:まず,固定資産税を払い続けなければなりません。空き家の評価額によって大きく異なりますが,年間数千円から数万円の出費となります。

また,周りに住宅がある場合,定期的な草刈りも必要になります。そのまま放置していると多くの場合,近隣の住民や役所から所有者に連絡がきます。遠方の場合,自分で草刈りはできませんので,高いお金を払って業者にお願いすることになります。

何の利用もしていないのに支払だけ発生する,まさに「負動産」です。

■有償引取りという新境地

編集部:「やまねこ不動産」ではどのようなサービスを展開しているのか教えてください。

溝口:当社では,売れない土地を有料でお引き取りしています。通常の不動産売買では売主がお金をもらうのですが,当社サービスは逆です。当社が土地をお引き取りするかわりに売主からお金を頂戴します。言葉は悪いですが粗大ゴミの回収業のようなサービスです。

売買契約は当社が買主となり100円で土地を買います。その一方でコンサルティング契約を交わし,当社への所有権移転登記が完了後に,コンサルティング費用として実質的な費用いただくという形をとっています。

お引取りの対象は日本全国です。2021年に正式にサービスを開始して以来,北海道から沖縄まで全国42都道府県の土地をお引き取りしました。件数でいうと200件前後,面積は30万㎡以上です。

編集部:なぜこのサービスを始められたのですか。

溝口:もともと不動産売買の仲介をやっており,当時から山の処分で困っている方がたくさんいらっしゃいました。仲介業者も商売でやっていますので,売れるかどうかもわからず,売れたとしても少額の仲介手数料では割に合いません。山奥の調査や案内は大変な負担です。

そんな中,お金を払ってでも不動産を手放したいというお客様が現れました。

「タダでもいいから」という方はいらっしゃいますが,お金を払ってでも,というのは私も予想外でした。

そこで,もしそれを継続的なビジネスにするならどうすればいいかを考え,弁護士,税理士の先生にリーガルチェックをしていただいた上で,2017年に簡易的なホームページを立ち上げました。

2021年にそれまで勤めていた会社をやめ,独立しました。特にこのサービスを行うために独立したわけではなく,通常の仲介業を行うつもりでした。宅建業の免許がおりるまで2か月ほど時間があったため,ホームページをリニューアルし,ネット広告も試しに出してみました。すると意外にたくさんのお問合せをいただきまして,こちらも驚いたほどでした。そこで,本格的にこちらのサービスに集中し,今ではこのサービスのみを行っています。

■具体事例:個人には負担が大きすぎる!

編集部:先生が扱った案件の中から,印象深いものをご紹介ください。

溝口:通常は,山林や原野をお引き取りすることが多いのですが,中には驚くような物件もあります。

中でも墓地は比較的多いです。登記簿の地目が「墓地」になっており,実際にお墓があったり,お墓はすでに撤去されているものの,地目としては「墓地」のままになっていたりするものもあります。

昨今ではお墓についても世代間で考え方が異なり,先祖代々の墓を管理するのは負担が大きいと考える人もたくさんいらっしゃいます。子供に負担をかけたくなくて墓じまいは済ませたものの,墓地だけに売却もできず放置させざるを得ません。

また,崖地や湖を相続された方もいらっしゃいます。どちらもその下に民家があり,万一のことがあれば多額の損害賠償責任が発生するかと思います。

個人で所有するにはあまりにも管理負担が大きすぎる土地については,行政の救済措置があってもいいのではないでしょうか。


(編集部注:インタビュー内容は,本欄掲載に伴い,一部編集を行っています。)


登壇者コメント

雑誌が発売されて多くの反響をいただき驚きました。
この雑誌をお読みになったという税理士の先生から、ご自身が相続された土地のご相談があり、当社でお引取りさせていただきました。
厄介な土地の相続問題は今後ますます顕在化していくと思われます。
より多くの方が御本人の問題として直面することになるでしょう。
当社サービスがその解決の一助になればと思っています。


登壇者略歴

溝口 喜郎(みぞぐち よしろう)

やまねこ不動産株式会社 代表取締役 
宅地建物取引士
1972年福岡生まれ。1998年,早稲田大学政治経済学部卒業。中国の大学に2年間留学した後,九州大学大学院で中国文学を専攻。38歳で研究者としての道を断念,福岡市の不動産会社に入社。約10年に渡り不動産売買に携わる。2020年末に退社し,やまねこ不動産株式会社を設立。日本初の「不動産有償引取りサービス」を始める。
ホームページ→
土地放棄のことならやまねこ不動産株式会社

編集部コメント

税理士業界で建物や土地というと,「相続税はどうなる?」というのが最初に出る話題でしょう。しかし,実は「そもそも相続したくない」「手放したい」という需要があるというのは,編集部としても新鮮な発見でした。
なお,本企画ご登壇の溝口喜郎先生が,さまざまな事情により税や不動産の専門家が手を焼く「厄介な土地」を紹介・解説する新連載【やまねこの不動産探訪(仮)】の準備が進んでいます。ご期待ください。

〈掲載号のご案内〉

『税務弘報』2023年10月号
発行日:2023/09/05


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