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Web3.0、脱プラットフォーマー、そしてメタバース|【連載】メタバース・ビジネスの歩き方(第7回)

こんにちは。中央経済社note編集部会計実務担当です。
TwitterのCEOに就任したイーロン・マスクの一挙手一投足が注目されています。「週80時間の勤務に備える必要がある」とハードワークを求めるマスク氏の言葉へのTwitter上のリプライを眺めていると、日本では意外にも「普通じゃね」といった声も多いように感じます。日本のツイッタラーには、長時間労働の猛者たちが多いのかもしれませんね。
さて、マスク氏のあまりの過激さに広告が激減したとかしていないとかで、「マスク氏、Appleを批判 ツイッターへの広告ほぼ停止」といった報道まで出ているようです(その後、「誤解はとけた」という報道も)。今回は、こうした巨大プラットフォーマーへの不満の背景や、これがWeb3.0、メタバースの原動力にもなっている点を掘り下げていきます。

「Web3.0」と巨大プラットフォーマー

巷に溢れている話を総合すると、「Web3.0」とは、現状のインターネットの進化によって生まれつつある次のデジタル世界を表す概念であると解釈できます。すでに「Web2.0」という言葉があることを踏まえたうえで、次世代のインターネットであることを表現しようとしたために「Web3.0」とされていますが、「Web3.0」についての明確な共通の定義はまだないと思われます。ただし、ブロックチェーンを基盤としており、トークンを活用することにより新たなエコノミーや秩序が形成される世界であるという理解は共通しているようです。

「Web3.0」については、業界によって様々な議論がなされていますが、その1つの背景として、「既存のプラットフォーマーの支配からの脱却」が挙げられることが多いようです。具体的には、「GAFAという巨大プラットフォーマーに世界中の個人に関わる情報が握られているので、その支配からは解放されるべきである」ということです。

実際に、スマートフォンには、住所・氏名・年齢などの基本情報にとどまらず、どんな商品を買ったか、どこへ行ったか、移動速度や健康状態、映画の趣味・嗜好など、ありとあらゆる自らの情報を記録することが可能です。もし悪意のある会社が、アプリのダウンロード条件(利用規約等)の中に、スマートフォンの中のすべての情報を開発会社に提供することを盛り込んでいるとどうなるでしょうか。たいていのユーザーはそうした規約をよく読まずに同意ボタンを押してしまいますから、本人が気づかないところで多くの情報が抜き取られてしまうことは想像に難くありません。

しかし、私たちは日々あまりにも多くのアプリを当たり前に使っていますし、個人情報の収集についても、どちらかといえば趣味嗜好に基づいた「リコメンド」(おすすめ)を積極的に受け入れているのではないでしょうか。そう考えると、一般の生活者の視点から見た場合には、GAFAに支配されているといっても、実害はあまりないようにも思えます。

プラットフォーマーに収益を吸い上げられる

巨大プラットフォーマーによる個人情報の占有のデメリットは、主にデジタルマーケティングの世界で起きています。2019年に新経済連盟がまとめた「海外デジタルプラットフォームを巡る諸課題と対応策~越境経済下での対等な競争環境の整備について~」によれば、この10年で著しく成長したデジタル経済圏における収益の多くが海外へ流出してしまっています。その中でも広告ビジネスにおいては、個人情報に基づく「リコメンド」の仕組みを持つプラットフォーマーが圧倒的に有利な地位を確立しています。

広告ビジネスだけでなく、スマートフォンにおけるアプリストアの課金についても、同じような構図があります。このアプリストアの課金についてはプラットフォームの利用を前提としており、iPhoneやAndroid端末で動くアプリの提供について、アプリ事業者は、(契約にもよりますが)課金額の約30%をAppleやGoogleに支払うようになっていると言われています。世界中のスマートフォンユーザーへアプリを配信するためのプラットフォーム利用料として、この30%が高いかどうかは評価が分かれるところですが、可能であればユーザーに直接配信する仕組みを持ちたいと考える企業は多いと考えられます。

プラットフォーマーの意思決定に業績まで左右される

プラットフォームを利用するアプリ開発会社にとっては、巨大プラットフォーマーに収益の多くが吸い上げられているだけでなく、そうした巨大プラットフォームの意思決定(例:ルールや仕様の変更)にビジネスが大きく左右されてしまうことも死活的な問題となり得ます。たとえば、独自の検閲ルールでアプリの配信自体が許可されないことなどもあるようです。

Metaはなぜメタバースに夢を見るのか

「GAFA」とひとまとめにして議論されることが多いですが、Facebookを運営するMetaですら、AppleやGoogleの経済圏の中でアプリケーションを提供する会社の中の1ベンダーに過ぎません。たとえば、Appleは2021年4月に個人情報の取得に関する規約(プライバシーポリシー)を変更しましたが、これによりMetaを含むアプリ開発会社は、本人の同意なく様々な情報を収集することができなくなってしまいました。Metaは収益のほとんどを広告事業(Facebookの広告収益)に頼っているために、リコメンドの精度が落ちたことでその広告収入に大きな影響を受けてしまったのです。

このようにApple(巨大プラットフォーマー)のレギュレーションの変更が、業績そのものにインパクトを与えるような影響力を持っているのです。Metaは、そのような影響力から逃れるために、自前のプラットフォームを確立させる必要があると考え、「メタバース」に社運を賭けたのかもしれません。VR(Virtual Reality)による新しい顧客体験(UX)を「売り」にして、既存のプラットフォームからユーザーを呼び込もうとしているのです。メタバースという新しい事業領域に先行投資し、結果として自社のハードウェアインフラを普及させるという戦略だったとも考えられます。しかし、現実は、VRデバイスとメタバースのネガティブな側面ばかりが取り沙汰され、収益も大きく減少するなど、未だ道半ばといった状態です。

余談ですが、Metaのメタバースがうまく進まない原因の1つは、コンテンツ制作の知見が不足していることだと思います。FacebookもInstagramも、Metaがコンテンツを制作しているのではなく、ユーザー自らがコンテンツを制作するUGC(User Generated Contents)という仕組みで成り立っています。Metaはそのためのインフラを展開してきた企業であり、コンテンツの中身については関与していません。ここにきて、メタバース用のアートやゲームを大量に開発して供給し始めたとしても、コンテンツ制作のノウハウが蓄積されていないわけですから、ユーザーに受け入れられるコンテンツを生み出すのはかなり難しいと思います(図1参照)。

コンテンツ制作会社には、トップから現場まで一貫した独自の文化やノウハウがあり、それを支える多くの人材が存在します。組織の作り方についても、システム開発とコンテンツ(ゲーム等)開発とでは、体制も各人の役割も業務フローも異なります。自社の既存のエンジニアで賄ったり、中途半端にクリエイターを採用したりするよりは、まずコンテンツ制作会社を傘下に入れてからメタバース空間の開発を行うべきだったと思います。
今まさに、世界中で多くの企業がメタバースを新たに立ち上げようとしていますが、基本的なスタンスとしてはUGC(User Generated Contents)の活用が前提になっています。しかし、他社との差別化のためには必ずオリジナルコンテンツが求められるようになるため、今後は各社ともにコンテンツ不足という課題に直面していくことになるでしょう。
また、プラットフォームの差別化という点についても、コンテンツによる差別化も必要になると思われます。今後はオリジナルのコンテンツの争奪戦が始まると思いますが、日本はアニメや漫画、ゲームなどオリジナルコンテンツを持つ会社が多数ありますので、この円安を追い風に多くの海外プラットフォーマーが、自社のメタバースの差別化のために日本のコンテンツ会社への出資を行うようになると思います。

あまり大きくは報道されていませんが、Google(Alphabet)も、ゲーム事業を立ち上げるために莫大な投資を行い、「Stadia」というブランド名でクラウドゲームサービスを開始したものの、ユーザーに受け入れられることなく数年で撤退(自社開発は2021年に終了、サービス自体は2023年1月に終了予定)することになりました。なお、Stadiaのサービス終了はStadia用のゲームを開発してきた会社にとってもインパクトが大きく、死活的な問題となっており、プラットフォームに依存することの怖さを物語っています。

Twitterで考えるプラットフォームの影響力

GAFAではありませんが、プラットフォームの支配という意味で、今一番の話題はTwitterでしょう。しかし、Twitterの平均月間アクティブユーザー数(MAU)(注)は3億3,000万人(2019年決算発表資料)で、Facebookの29億5,800 万人(2022年第3四半期決算資料2019年第1四半期時点であれば23億7,500万人)には到底及びませんし、MAUだけを比較すればPinterest(Statista のデータによれば、2022年第3四半期:4億4,500万人、2019年第1四半期:2億9,100万人)とも肉薄しています。

(注)同社はマネタイズ可能な日次アクティブユーザー数(mDAU)を最重要KPIとし、2019年第1四半期以降、月間アクティブユーザー数の開示を行っていません。mDAUは、2019年第1四半期は1億3,400万人で、最新の2022年第2四半期では2億3,780万人となっています。なお、FacebookのDAUは、2019年第1四半期で15億6,200万人で、最新の2022年第3四半期では19億8,400万人となっています。

イーロン・マスクという個人がTwitterという巨大なメディアを手に入れたことで、その運営方針をめぐりユーザーの脱退などが起こっているなどと報道されています。2021年度のアニュアルレポートでは総収益50.8億ドルのうち、米国で28.4億ドル、日本で6.8億ドルと、両国で7割を占めています。もしかしたらTwitterの影響は日本人が考えるほどには大きくはないのかもしれません。

いずれにせよ、「GAFA」に頼らないデジタルプラットフォームが必要であるということは様々な業界において認識されていくことになるでしょう。

次回はWeb3.0のもう1つの側面である「ガバナンスの民主化」と話題のDAOについて取り上げます。果たしてDAOは株式会社を代替する新たな経営モデルなのか、それとも非営利法人の救世主なのか…。お楽しみに!

著者略歴

東海林 正賢(しょうじ・まさより)
Jazzy Business Consulting株式会社 代表取締役
一般社団法人オルタナティブデータ推進協議会 代表理事

新卒で外資系システムサービス会社へ入社し、新規事業開拓を担当。2015年にコンサルティング会社に転職。フィンテックに関する専門組織を立ち上げ、統括パートナーとして組織をリード。2021年に一般社団法人オルタナティブデータ推進協議会を立ち上げ、代表理事に就任(現任)。2022年に独立し、Jazzy Business Consulting株式会社を立ち上げ、代表取締役に就任(現任)。

バックナンバー

第1回 メタバースが経済をつくる
第2回 メタバースでイベントを開催したい!
第3回 Play to Earn事例で考えるメタバースの収益モデル
第4回 メタバースを収益化するためには?
第5回 Webの進化に追いつけない“裏側”のデジタル化
第6回 岐路に立つNFTビジネス

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