利用規約の変更の条項例、個別同意部分の変更|【連載】ITサービスにおける「利用規約」作成のポイント(第2回)
今回は、ビジネス法務本誌連載第2回(2022年12月号)で扱った「利用規約の変更」に関連して、条項例を掲載するとともに、「個別に同意した部分の変更」の論点を解説します。
Ⅰ 「利用規約の変更」の条項例
(1)変更の対象
条項例は、「本規約」を変更の対象としていますが、サービス全体にかかる利用規約だけでなく、個別サービスの規約やガイドライン等、どの範囲まで規約の範囲に含めるかについては、明確にする必要があります。また、対象に広く付属規定等も含める場合は、それらの規定の内容に矛盾が生じた場合に備えて、その優先関係を明らかにしておくことも重要です。
(2)変更の条件や手続
本誌連載でも述べたように、定型約款を変更する場合の条件や手続等を、利用規約であらかじめ規定することは、法的な要件として必須ではありません。
もっとも、「定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容」は、規約変更が「合理的なもの」(民法548条の4第1項)といえるかどうかの考慮要素の1つになることから、できる限り具体的に設けておくことが望ましいといえます。
上記の条項例1項では、多くの場面に柔軟に対応できるよう、民法548条の4第1項と同様の内容を、簡潔に定めるにとどめています。
変更の手続としては、
定型約款を変更する旨
変更後の定型約款の内容
その効力発生時期
を、「インターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない」とされています(民法548条の4第2項)。
周知方法は、通常はインターネットやアプリ等における掲載が考えられますが、変更による利用者の不利益が大きい場合には、個別に電子メール等で通知することも、変更の有効性を肯定する方向に作用することになると解釈されています。このため、実際に変更の都度、電子メール等で個別に通知する想定である場合、条項例2項において、利用者に個別に通知する場合がある旨を規定しておくことも考えられます。
もっとも、「個別の通知」を方法の1つとして規定しながら、その方法を選択しなかった場合には、あえて通知を周知方法の1つとして挙げた以上、「周知」の効力を争われるリスクが高まるおそれもあります。この点もふまえ、個別の通知まで規約で規定をしておくのがよいかは、慎重に検討すべきと思われます。
変更内容については、わかりやすく説明・開示することが重要であり、新旧対照表で示す方法も有益と考えられます。
周知期間については、予見可能性を確保するため、「30日前までに周知する」などの具体的な期間を設けることも考えられます。もっとも、日数を明確に定めてしまうと、個別の対応の柔軟性に欠けることになるため、どの程度の具体的な規定とするかは、サービスの特性等に鑑み、個別に検討する必要があります。現状の実務においては、柔軟性を確保するという観点から、利用規約には特段周知期間を定めない場合が多いように思われます。
なお、「特定プラットフォーム提供者」に対するアンケートによれば、1カ月以上前に取引条件の変更通知を行ったという回答が9割程度であったとの調査結果もある一方で、価格変更が変更通知の15日後に行われるという事案もあり、これについては利用者への影響を考慮した期間であったかは疑問が残るとの有識者からの指摘もあります(デジタルプラットフォームの透明性・公正性に関するモニタリング会合 意見とりまとめ(2022年11月11日)8頁)。
Ⅱ 利用規約の個別同意部分の変更
(1)個別同意部分の変更の問題
利用料や契約期間等は、利用規約上の空欄を埋めるなどの方法で、利用者ごとに個別に合意をする場合があります。このような個別合意部分を、利用者の個別の同意を得ずに変更することはできるでしょうか。
個別同意部分は、通常、定型約款には含まれないため、民法548条の4に従い変更の可否が判断されることにはなりません。したがって、原則としては個別の同意を得て変更する必要があります。
もっとも、サービス事業者において多数の利用者を画一的に取り扱う必要があり、利用者側においても変更の可能性を十分に認識していたといえるような場合は、民法548条の4と同様のルールに基づいて変更をすることが認められる場合があるものと考えられます。
(2)個別同意部分の定型約款該当性
民法548条の4に定める定型約款の変更の対象に特に制限はなく、利用料や提供されるサービスの内容等、中核的な条項も変更の対象になり得ます。もっとも、個別に合意された契約内容は、「その特定の者により準備された条項」(民法548条の2第1項)に該当しないため、定型約款には含まれないことになります。
(3)定型約款に該当しない場合の規約の変更
定型約款に該当しない場合、民法548条の4の適用はなく、一方的な契約の変更が許容されるかどうかは、解釈に委ねられます。
民法の原則に従えば、利用者からの変更への明示的な同意が必要となります。もっとも、明示的な同意がなくても、サービス提供者が変更について利用者に十分に告知をしたうえで、変更の告知後も利用者が異議なくサービスの利用を継続したことをもって、黙示的な変更への同意があったと認められる場合があると考えられます。
すなわち、多数の利用者との契約内容を画一的に変更する必要性があり、利用者の多くが変更の可能性につき認識があるといった事情が認められる場合に、変更の告知により、利用者に対して変更の旨と変更内容が適切に開示されていることを条件として、個別の同意がなくとも合理的な範囲で利用規約の変更が認められる可能性があります。
定型約款に該当しない利用規約の変更につき、利用者の黙示の同意が認められるかにあたっては、たとえば変更が、
① 一般の利用者に合理的に予測可能な範囲内であるか
② 一般の利用者に影響を及ぼす程度
③ 法令の変更への対応のためといった、一般の利用者であれば当然に同意するであろう内容であるか
④ サービスの改良や新サービスの提供など利用者にもメリットのある条件変更に伴うものであるか
といった点が考慮されることになると考えられます(経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(2022年4月改訂版)38頁以下)。
なお、上記の観点から、変更が認められる場合があるとしても、利用料の値上げについては、極めて厳格な要件のもとで審査されることになることに留意が必要です。
少なくとも料金の値上げの開始時期までに一定の猶予期間が設けられ、利用者がその猶予期間内に特段の不利なく取引を解消する権利が認められるといった配慮がされていることは必須であり、値上げの必要性や値上げ幅の相当性が厳しく吟味され、合理的なものであると認められる必要があるため、特に慎重に検討する必要があります。
執筆担当:近藤僚子
筆者略歴
中山 茂(なかやま・しげる)
TMI総合法律事務所 弁護士
コンテンツ、IT業界の分野を中心に取り扱い、会社のガバナンス体制についても広くアドバイスを行う。著書として、『IT・インターネットの法律相談〔改訂版〕』(共著、青林書院、2020)など。
古西桜子(こにし・さくらこ)
TMI総合法律事務所 弁護士
知的財産、ITに関する法務を専門とし、ブランド管理やドメイン保護、エンターテイメント・メディア等の領域・紛争対応を扱う。著書として、『IT・インターネットの法律相談〔改訂版〕』(共著、青林書院、2020)など。
近藤僚子(こんどう・りょうこ)
TMI総合法律事務所 弁護士
IT業界の分野を中心に、訴訟、契約法務から個人情報保護法、労働法の分野まで広く取り扱う。
菅野邑斗(かんの・ゆうと)
TMI総合法律事務所 弁護士
倒産・事業再生、M&A法務、契約法務について広くアドバイスを行う。契約法務に係る著作も多数あり、『業務委託契約書作成のポイント〔第2版〕』(共著、中央経済社、2022)など。
丸山 駿(まるやま・しゅん)
TMI総合法律事務所 弁護士
IT・インターネット業界に関する業務を多く取り扱うほか、スポーツ団体を中心とした法人のガバナンス支援、個人情報関連、訴訟、契約法務等を広く取り扱う。近時の論稿として、「企業のためのメタバースビジネスインサイト:法の観点から見るメタバース 特商法編/利用規約編」(共著、PwC Japanグループウェブサイト、2022)など。
柿山佑人(かきやま・ゆうと)
TMI総合法律事務所 弁護士
倒産・事業再生、訴訟、契約法務、データ関連法務等を取り扱う。著書として、『プライバシーポリシー作成のポイント』(共著、中央経済社、2022)など。
飯田真弥(いいだ・しんや)
TMI総合法律事務所 弁護士
知的財産分野を専門とし、IT・インターネット業界のデータ関連法務、訴訟、契約法務等を多く取り扱う。著書として、『プライバシーポリシー作成のポイント』(共著、中央経済社、2022)など。
林 里奈(はやし・りな)
TMI総合法律事務所 弁護士
IT・インターネットビジネス分野の業務を多く取り扱うほか、ヘルスケア事業に関するサービス設計支援・契約法務等の業務も扱う。
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