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利用規約の一般条項、通知先の変更の条項例|【連載】ITサービスにおける「利用規約」作成のポイント(第3回)

今回は、ビジネス法務本誌連載第5回(2023年4月号掲載)で扱った「一般条項」に関連して、「通知先の変更」の条項例に関する論点を解説します。


Ⅰ 利用規約における一般条項

利用規約に通常定める一般条項としては、以下のような項目があります。

  • 権利義務の譲渡禁止

  • 利用者に対する通知方法・通知先の変更

  • 秘密保持義務

  • 個人情報の保護

  • 反社会的勢力の排除

  • 分離可能性条項

  • サルベージ条項

  • 不可抗力条項

  • 言 語

  • 準拠法

  • 紛争解決方法・裁判管轄

このうち、本誌連載第5回(2023年4月号掲載)では、言語、準拠法、紛争解決方法・裁判管轄、分離可能性条項、また、2023年6月1日施行の改正消費者契約法に関連して注目すべきサルベージ条項について解説しました。

準拠法・紛争解決方法を含めた一般条項は、利用規約の作成時にそれほど意識されないこともありますが、万が一トラブルになった際には重要な規定となりますので、これについては本誌連載をご参照いただければ幸いです。

今回は、本紙連載では誌面の都合で掲載できなかったものの、利用規約の作成において注意すべき事項の1つとして、

【利用者に対する通知方法・通知先の変更】

について掲載します。

Ⅱ 「通知先の変更」の条項例

サービス提供者は、利用者に対し、サービスの提供に必要な場面や利用規約の条項に基づいて、個別に連絡や通知をすることがあります。サービス提供者から利用者に対する通知は、利用者があらかじめ登録したメールアドレス等の通知先に対して行われるのが一般的ですが、その通知先が変更された場合には、サービス提供者からの通知が到達しない可能性があります。

上記の場合に備えるため、利用規約において、利用者の「通知先の変更」に関し、以下のようなものが入っている例がみられます。

【条項例①】
登録された利用者の連絡先に変更があった場合、利用者は、当社に対して変更内容を速やかに通知しなければなりません。

【条項例②】
当社は、登録された利用者の[住所/メールアドレス]宛に通知を発送すれば足り、当該通知が到達しなかった場合であっても、通常到達するであろう時をもってお客様に到達したものとみなします。

(1)通知に関する民法に基づく原則

民法の意思表示に関する到達主義の原則に基づけば、各種連絡事項が利用者に到達しなければ、その連絡事項による意思表示は利用者に対して有効となりません(民法97条1項)。

しかし、この原則のままでは、不特定多数の利用者に通知しなければならないサービス提供者からすると、すべての連絡事項について到達状況を管理する負担を負うことになります。また、利用者が自らの連絡先を変更した際に、サービス提供者に速やかに連絡するとは限らないため、サービス提供者が登録された利用者の連絡先に通知しようとしてもスムーズに通知できないこともあります。

利用者に通知ができなくなった場合、法的な手段としては、所在不明者に対する意思表示の公示送達の手続(裁判所等の掲示場へ掲示され2週間を経過した時に到達したものとみなされる方法)があります(民法98条)。

しかし、公示送達は、郵便局から返送された郵便物を提出するだけでなく、利用者が所在不明であることを現地で調査して報告する必要があるなど、事業者にとって過大な負担といえます。多数の利用者を想定するITサービスの提供者にとっては、効率的なサービス運営の観点からは現実的でないと考えられます。

(2)利用規約での実務上の対応

このような点を考慮し、上記の【条項例①】は、利用者が登録した連絡先が変更された場合に、利用者に対してサービス提供者への通知義務を定めるものです。

利用者側で連絡先を変更した際、利用者からサービス提供者に対して変更内容を連絡してもらわなければ、サービス提供者としては変更後の連絡先を知ることができないのが一般的ですし、また利用者に過度な負担を課すとまではいえませんので、このような条項例は、法的に問題ないものと考えられます。

他方で、上記の【条項例②】は、サービス提供者が利用者へ通知するにあたって登録された利用者の連絡先に対する通知で足りる旨を定めるものです。

登録された連絡先に誤りがあったり、古い情報であったために利用者に通知が届かなかったりする場合に、通知を受け取れなかった利用者との間でも通知が到達したとみなし、通知の効力を生じさせるものです(通知の到達を擬制する条項)。利用者からのクレームを受けるケースに備える側面もあるといえます。

さらに、顧客管理コストを低減する目的で、一定期間に利用者に対して通知が届かなかった場合に、

  • サービスの利用の中止

  • サービス提供契約の解除

の効果を定める例もあります。

(3)消費者契約法上の留意点

もっとも、上記の【条項例②】のような、登録された利用者の連絡先に対する通知で足りる旨の条項は、“利用者が提供サービスを利用する際に必要な通知内容を受領する”という利益を制限することにつながり得ます。

そのため、toC(対消費者向け)取引の場合には、特にサービス提供の解除や利用中止等、利用者と事業者との間の法律関係の変更や消滅などの変動に関する重大な通知につき、消費者の被る不利益が重大であるとされ、消費者の利益を一方的に害する条項(消費者契約法10条)として無効であると判断されるおそれがあります。

消費者契約法10条については本誌連載第4回でも言及しましたが、同条は、以下の前段と後段の両方の要件を充足する消費者契約の条項を無効とするものです。 

前段:
法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項

後段:
信義則に反して消費者の利益を一方的に害するもの

同条は、いわゆるバスケット条項であり、消費者契約の条項が不当条項に当たって無効となる根拠条文となり得ます。同条の適用においては、取引態様やその実情も諸般の事情の1つとして考慮されるべきであると解されています。

そのため、近時の消費者保護を強める潮流においては、利用規約の策定時に消費者契約法10条の不当条項に基づいて無効とされるリスクを念頭におきつつ、当該リスクを事実上減らすことができるよう、消費者の利益を一方的に害するものに当たらないように通知をめぐる運用を慎重に検討する必要があるといえます。

また、「通知が到達しなかったことによってお客様に生ずる損害について、当社は損害賠償責任を一切負いません。」との免責条項を定める例もありますが、消費者契約法10条の不当条項に基づいて無効とされるリスクがあります(詳細については、本誌連載第4回(2023年3月号掲載)を参照ください)。

事業者の中には、上記の【条項例②】を原則としつつ、消費者に対する「解除や利用中止に関する意思表示」など一般的に利用者が被る不利益の程度が大きい条項については、通知の到達を擬制する条項の適用対象から除外させ、利用者に到達した時点で効力を発すると整理する条項例も見受けられます。ただし、適用場面は明確になる反面、いかなる場合にも解除や利用中止等について通知の到達を擬制できない点で、事業者にとっては使い勝手の悪さも生じ得るようにも思われます。

消費者契約法10条に基づいて条項が無効となるリスクをどこまで回避するかは、上記のような点も考慮して、サービス内容に応じて設計する必要があるといえます。

執筆担当:古西桜子

筆者略歴

中山 茂(なかやま・しげる)
TMI総合法律事務所 弁護士
コンテンツ、IT業界の分野を中心に取り扱い、会社のガバナンス体制についても広くアドバイスを行う。著書として、『IT・インターネットの法律相談〔改訂版〕』(共著、青林書院、2020)など。

古西桜子(こにし・さくらこ)
TMI総合法律事務所 弁護士
知的財産、ITに関する法務を専門とし、ブランド管理やドメイン保護、エンターテイメント・メディア等の領域・紛争対応を扱う。著書として、『IT・インターネットの法律相談〔改訂版〕』(共著、青林書院、2020)など。

近藤僚子(こんどう・りょうこ)
TMI総合法律事務所 弁護士
IT業界の分野を中心に、訴訟、契約法務から個人情報保護法、労働法の分野まで広く取り扱う。

菅野邑斗(かんの・ゆうと)
TMI総合法律事務所 弁護士
倒産・事業再生、M&A法務、契約法務について広くアドバイスを行う。契約法務に係る著作も多数あり、『業務委託契約書作成のポイント〔第2版〕』(共著、中央経済社、2022)など。

丸山 駿(まるやま・しゅん)
TMI総合法律事務所 弁護士
IT・インターネット業界に関する業務を多く取り扱うほか、スポーツ団体を中心とした法人のガバナンス支援、個人情報関連、訴訟、契約法務等を広く取り扱う。近時の論稿として、「企業のためのメタバースビジネスインサイト:法の観点から見るメタバース 特商法編/利用規約編」(共著、PwC Japanグループウェブサイト、2022)など。

柿山佑人(かきやま・ゆうと)
TMI総合法律事務所 弁護士
倒産・事業再生、訴訟、契約法務、データ関連法務等を取り扱う。著書として、『プライバシーポリシー作成のポイント』(共著、中央経済社、2022)など。

飯田真弥(いいだ・しんや)
TMI総合法律事務所 弁護士
知的財産分野を専門とし、IT・インターネット業界のデータ関連法務、訴訟、契約法務等を多く取り扱う。著書として、『プライバシーポリシー作成のポイント』(共著、中央経済社、2022)など。

林 里奈(はやし・りな)
TMI総合法律事務所 弁護士
IT・インターネットビジネス分野の業務を多く取り扱うほか、ヘルスケア事業に関するサービス設計支援・契約法務等の業務も扱う。

バックナンバー

第1回 規約への同意・わかりやすい規約の実例
第2回 利用規約の変更の条項例、個別同意部分の変更


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