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ECサイトにおける利用規約/商品の引渡債務に関する条項例|【連載】ITサービスにおける「利用規約」作成のポイント(第6回)

本誌連載第7回(2023年6月号)では、「商品販売(ECサイト)型のサービスにおける利用規約」に関連して、以下の項目を取り扱いました。

・商品販売型の利用規約の建付け(2段階の契約関係)
・個別の売買契約に係る条項
 ① 個別の売買契約の成立時期
 ② 申込拒絶事由・解除事由
 ③ 契約不適合責任
 ④ 商品の廃棄

本記事においては、本誌連載では紙幅の都合上、取り上げることのできなかった「商品の引渡債務履行」に関する条項例について、解説します。


Ⅰ 実務上一般にみられる規定の意味

実務上、商品販売型の利用規約において、以下のような「商品の引渡債務履行」に係る条項を定める例が多く見受けられます。

当社は、本商品を、利用者が本個別売買契約の際に指定した場所に配送する方法により引き渡すものとします。

ECサイト上で個別の商品に関する売買契約が成立した場合、事業者は、民法上、利用者に対し商品の引渡債務(義務)を負います(民法555条)。

そして、当該引渡債務の履行場所について、民法上は、当事者が「別段の意思表示」をした場所があれば、そこで履行するものとしており(民法484条1項)、商品販売型の場合でいえば、通常、利用者が指定した配達場所(自宅など)が、履行場所になります。

このようにみてみると、上記条項例は、かかる民法上の規律を確認する規定に過ぎないと整理できます。

Ⅱ 仮に配送業者がミスをした場合には?

それでは、事業者が配送を他の事業者に委託するケースにおいて、仮に配送業者が配送ミス(配送物の損傷、配送遅延等)をした場合、事業者は利用者に対し責任を負うでしょうか。

この点、民法上、事業者は配送業者の行為についても、責任を負う場合があります。
(細かな理屈については諸説ありますが、)伝統的には、自らの債務履行のために手足として使用する者(履行補助者)のミス(故意・過失)は、自身の故意過失と同視される場合もあると解されています。

Ⅲ 利用規約の定めで責任を回避できるか?

しかし、事業者の立場からすると、配送業者は社外の第三者である面は否めず、配送業者のミスを自分の責任とは同視されたくない(自らの責任からは、なるべく遮断したい)と考える場合もあるでしょう。

そこで、たとえば、以下のような規定により、配送業者への引渡後は無関係である(責任がない)という整理はできないでしょうか。

「当社は、本商品を、配送業者に引き渡した時点で、利用者への引渡しも完了します。」

実務上も、このような規定が設けられている例もあるとの指摘もあります(松尾博憲ほか〔編著〕『利用規約・プライバシーポリシーの作成・解釈――国内取引・国際取引を踏まえて』(商事法務、2023)122頁)。

この規定の有効性に関しては、明確な裁判例等があるわけではありません。

もっとも、売買契約における事業者(売主)の主要な義務(引渡債務)について、利用者側の事情とは無関係に、(配送業者への引渡しをもって)容易な履行完了を認めることは、消費者契約法に照らすと、有効性に疑義が生じる余地も否めないように思われます。
なお、民法との関係でも、定型約款の不当条項該当性が問題になり得るでしょう。

この点に関連して、消費者庁が公表している「消費者団体訴訟制度 適格消費者団体による差止請求事例集」(平成30年度)は、適格消費者団体による差止請求の過去事例をまとめた資料ですが、同資料は、利用規約の消費者契約法上の有効性を判断するうえでも参考になります。

そして、当該事例集の86頁においても、
「商品を配送業者に引き渡した時点で、その商品に関する紛失のリスク……はお客様に移ります。」
とする条項について、適格消費者団体が“消費者契約法との関係で無効である”旨を主張して差止請求をし、結果、条項の修正がなされた事例が紹介されています。問題になったのはまったく同じ条項ではありませんが、上記論点との関係でも、参考になります。

このようにみていくと、上記の問題について、果たして利用規約の定めによって解決すべきかには検討を要すると思われます。

そもそも、商品販売型で販売される商品はそれほど高価品ではなく、代替品を提供できるケースも多いため、配送業者にミスが生じた場合に利用者に生じる損害は、それほど大きな金額ではないことも多いと考えられます。そのなかで、あえて法律上無効となるリスクを抱えて、利用規約で事業者の免責を定めるまでもないという考え方もあり得るのではないかと思われます。

むしろ、事業者が「配送業者に引き渡しさえすれば責任はない」というスタンスをとることは、利用者からの批判を招きかねず、そのほうが事業者にとって悪影響が大きい可能性もあるともいえます。

なお、仮に、商品が高価品や貴重品である場合にも、保険に加入するなど、利用規約とは別の観点から対応することも考えられます。

Ⅳ まとめ

本連載でもこれまで指摘してきたところではありますが、利用規約において、事業者側に有利な規定を検討するにあたっては、消費者契約法(や民法上の定型約款)との関係で、果たして有効な規定であるかを慎重に検討する必要があります。

かかる検討にあたっては、消費者庁の公表している逐条解説や各種資料も参考になります(当該資料から直ちに明らかでない場合には、専門家への相談もご検討ください)。

また、仮に条項の有効性に疑義がある場合には、いったん立ち止まり、ビジネススキームを俯瞰的に分析し、実際上の観点から、当該条項が本当に必要であるのか、利用規約とは別途に対処する方法はないか検討する視点も肝要と考えます。

                                      執筆担当:菅野邑斗

筆者略歴

中山 茂(なかやま・しげる)
TMI総合法律事務所 弁護士
コンテンツ、IT業界の分野を中心に取り扱い、会社のガバナンス体制についても広くアドバイスを行う。著書として、『IT・インターネットの法律相談〔改訂版〕』(共著、青林書院、2020)など。

古西桜子(こにし・さくらこ)
TMI総合法律事務所 弁護士
知的財産、ITに関する法務を専門とし、ブランド管理やドメイン保護、エンターテイメント・メディア等の領域・紛争対応を扱う。著書として、『IT・インターネットの法律相談〔改訂版〕』(共著、青林書院、2020)など。

近藤僚子(こんどう・りょうこ)
TMI総合法律事務所 弁護士
IT業界の分野を中心に、訴訟、契約法務から個人情報保護法、労働法の分野まで広く取り扱う。

菅野邑斗(かんの・ゆうと)
TMI総合法律事務所 弁護士
倒産・事業再生、M&A法務、契約法務について広くアドバイスを行う。契約法務に係る著作も多数あり、『業務委託契約書作成のポイント〔第2版〕』(共著、中央経済社、2022)など。

丸山 駿(まるやま・しゅん)
TMI総合法律事務所 弁護士
IT・インターネット業界に関する業務を多く取り扱うほか、スポーツ団体を中心とした法人のガバナンス支援、個人情報関連、訴訟、契約法務等を広く取り扱う。近時の論稿として、「企業のためのメタバースビジネスインサイト:法の観点から見るメタバース 特商法編/利用規約編」(共著、PwC Japanグループウェブサイト、2022)など。

柿山佑人(かきやま・ゆうと)
TMI総合法律事務所 弁護士
倒産・事業再生、訴訟、契約法務、データ関連法務等を取り扱う。著書として、『プライバシーポリシー作成のポイント』(共著、中央経済社、2022)など。

飯田真弥(いいだ・しんや)
TMI総合法律事務所 弁護士
知的財産分野を専門とし、IT・インターネット業界のデータ関連法務、訴訟、契約法務等を多く取り扱う。著書として、『プライバシーポリシー作成のポイント』(共著、中央経済社、2022)など。

林 里奈(はやし・りな)
TMI総合法律事務所 弁護士
IT・インターネットビジネス分野の業務を多く取り扱うほか、ヘルスケア事業に関するサービス設計支援・契約法務等の業務も扱う。

バックナンバー

第1回 規約への同意・わかりやすい規約の実例
第2回 利用規約の変更の条項例、個別同意部分の変更
第3回 利用規約の一般条項、通知先の変更の条項例
第4回 利用規約における禁止事項の条項例
第5回 利用規約における登録拒絶事由/ID・パスワード管理の条項例


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