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2021年(令和3年)改正プロバイダ責任制限法をフォローアップ! インターネットにおける誹謗中傷対策の最新動向

こんにちは、中央経済社note編集部経営実務書担当です。
インターネット上で過激さを増す誹謗中傷に対する法整備や議論は、現在進行形でスピーディに進んでいます。
直近では、刑法の「侮辱罪」を厳罰化する法案が成立したように、厳しく対処する流れができつつあります。
誹謗中傷をはじめとしたネット上の権利侵害の多くは匿名でなされるため、そういった行為をやめさせ、相手の責任を追及するには、発信者の情報(氏名や住所など)を有しているプロバイダ(特定電気通信役務提供者)に、被害者が発信者を特定できる情報を開示するよう求めることになります。こうした権利を認めるのが「プロバイダ責任制限法(※)」です。
この「プロバイダ責任制限法」の非常に大きな改正が、2021年3月に成立しました(2022年10月施行予定。以下、単に「改正法」と呼びます)。改正法により、発信者の情報開示を請求する方法がこれまでと大きく変わり、実務も大きく動くことが予想されます。
詳しくは、中澤佑一著『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル〈第4版〉』にて解説しています。
ここでは、著者の中澤佑一先生に、改正法および新設された施行規則について実務の変更点を解説いただきました。
ぜひお役立てください。

※正式には「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」

改正プロバイダ責任制限法の全体像

改正法により、発信者情報開示制度(インターネット上の情報発信について発信者の特定を行う手続)が大きく2点変更となります。1つは発信者情報開示請求が可能な範囲が広がったという実体法上の要件や効果の面、もう1つは発信者情報開示請求権を行使する際にどのような手続が利用できるかという手続面です。

実体法面の改正(ログイン型関連)

従来は解釈上発信者情報開示の対象となるか否かが激しく争われていた「ログイン型」と呼ばれるタイプの情報発信について規定が整備されました。「ログイン型」とは、アカウントにログインをしなければ情報発信が行えないタイプのSNS等のウェブサイトのうち、個別の情報発信に関する通信記録が保存されず、ログイン時の通信記録のみが保存されるタイプのウェブサイトのことを言います。
代表的なサイトで言うとTwitterやInstagramなどが該当します。

実態に即していない法制が改善された

Twitterなど「ログイン型」のウェブサイトで誹謗中傷の投稿がなされた場合、その誹謗中傷を投稿した際の通信記録はありません。そのため誹謗中傷の投稿がなされたアカウントへのログイン記録から発信者をたどってゆくのが唯一の方法です。
しかし、従来のプロバイダ責任制限法は、権利侵害を発生させた通信に関しては通信の秘密を例外的に制限する(発信者情報の開示を認める)という建付けをとっていたため、権利侵害そのものには関係のないログイン通信は発信者情報開示の対象とならないというのが条文に最も素直な解釈でした。これは法制度としての不備と言えます。
裁判例は、必要性や関連性を根拠としてログイン通信からの発信者情報開示を一定の範囲で認めていましたが、その範囲や要件の統一感もなく、何より条文解釈上無理をしているところがあったため、改正法では真正面から「ログイン型」に関する発信者情報開示を認めつつ、要件や効果が整理されました。
今回の改正でも、権利侵害を発生させたそのものの通信からの発信者の特定があくまで原則ではありますが、これが不可能な場合には例外的にログイン通信などからの発信者特定が認められています。

侵害関連通信とは

具体的に発信者情報開示の対象となるのは、「侵害関連通信」という新たな用語で定義される、①アカウントを作成した際の通信、②侵害情報の送信と相当の関連性を有する範囲のアカウントにログインをした際の通信、③侵害情報の送信と相当の関連性を有する範囲のアカウントからログアウトした際通信、④アカウントを削除した際の通信、の4つです(プロバイダ責任制限法施行規則5条)。
そして、これらの侵害関連通信を媒介したプロバイダは、権利侵害を発生させたそのものの通信とは無関係であったとしても、侵害関連通信の送信に関する発信者情報を開示する義務を負うことも明記されています。

手続面の改正(新たな裁判手続の創設)

手続面の改正として、従前の手続とは全く異なる非訟手続による「発信者情報開示命令」という制度が新設されます。
非訟手続によることで、外国送達が不要になる範囲が広がることなど、柔軟な運用により迅速な発信者情報開示が実現されることが期待されています。
そして、従来の手続にはない発信者情報開示命令に特徴的な新たな制度として「提供命令」という命令が新設されました。これは、従来はウェブサイト管理者よりIPアドレスの開示を受けて、そのIPアドレスから通信に用いられたプロバイダを特定したうえ、改めてプロバイダに対して開示請求をするという2段階の作業が必要であったのを改め、一体的な発信者情報開示制度を実現するための命令です。

新たな裁判手続の流れ

具体的には、提供命令が発令されると、命令を受けたサイト管理者等は対象の通信の通信記録を確認のうえ、通信に用いられたプロバイダを特定し、そのプロバイダ名と住所を発信者情報開示請求者に提供します。IPアドレス等の発信者情報は対象のプロバイダにサイト管理者等から直接共有され、開示請求者には共有されないため、権利侵害の成否に関して終局的な判断がなされる前に提供命令がなされ、終局的な判断はプロバイダも含めて手続に参加して行うことになります。
従来は、サイト管理者に対する請求と、プロバイダに対する請求とで、権利侵害の成否に関して同様の審理を2回行う必要があったことから、うまく行けば審理の負担の軽減や迅速化が図られる可能性があります。

出所:『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル〈第4版〉』より

もっとも、提供命令をはじめ新設される発信者情報開示命令が適切に稼働するためには、ウェブサイト管理者とプロバイダ間の適切な情報共有、裁判所による迅速な判断、そして申立人による要点を絞った適切かつ過不足のない主張および立証が欠かせません。
なお、従前の仮処分や訴訟による発信者情報開示請求も存続し、両手続が併存し、開示請求者が選択的に行うことになります。

参考

プロバイダ責任制限法施行規則(2022年5月公布)

最高裁規則「発信者情報開示命令事件手続規則」(2022年3月15日公布)

※官報掲載。現在オンラインでは閲覧不可。

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著者紹介

中澤 佑一(なかざわ ゆういち)
弁護士。弁護士法人戸田総合法律事務所代表。IT・知的財産関係法務を中心に活動。

[主な著作]
『保護者のためのあたらしいインターネットの教科書』(共著、中央経済社)、『「ブラック企業」と呼ばせない! 労務管理・風評対策Q&A』(編著、中央経済社)、『最新 プロバイダ責任制限法判例集』(共著、LABO)、『〔改訂版〕ケース・スタディ ネット権利侵害対応の実務』(共著、新日本法規出版)

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