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利用規約における禁止事項の条項例|【連載】ITサービスにおける「利用規約」作成のポイント(第4回)

今回は、ビジネス法務本誌連載第3回(2023年1月号)で扱った「禁止事項」に関連して、具体的なサービス類型ごとの禁止事項について解説します。
本誌連載第3回では、禁止事項を定める意義や、禁止事項においてバスケット条項を定めるうえでの留意点を解説するほか、禁止事項の実行性を高めることになる各種ペナルティ条項についても、無催告での強制退会の可否や留意点、違約金条項がどのような場合に無効になるかなどを解説しています。 

本記事では、禁止事項の条項が明解に整理されている企業の利用規約を題材にしながら、サービス内容に応じてどのような禁止事項が必要になるのかを解説します。具体的には、

I 利用者同士でメッセージ交換等をすることが可能なSNS
II 商品売買プラットフォームや商品販売(ECサイト)型のサービス
Ⅲ サービス内通貨が存在するサービス

という3つの類型における実例を取り上げます。


Ⅰ 利用者同士でメッセージ交換等をすることが可能なSNSの場合

LINE株式会社が提供する「LINE」は、利用者同士でメッセージ交換等をすることが可能なSNSであり、その利用規約には以下の各事項が禁止事項として規定されています。 

なお、説明の便宜上、一部の禁止事項につき、実際の利用規約とは異なる記載順に入れ替えております。下記およびも同様です。 

a. 過度に暴力的な表現、露骨な性的表現、児童ポルノ・児童虐待に相当する表現、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地等による差別につながる表現、自殺、自傷行為、薬物乱用を誘引又は助長する表現、その他反社会的な内容を含み他人に不快感を与える表現を、投稿又は送信する行為
b. 営業、宣伝、広告、勧誘、その他営利を目的とする行為(当社の認めたものを除きます。)、性行為やわいせつな行為を目的とする行為、面識のない第三者との出会いや交際を目的とする行為、他のお客様に対する嫌がらせや誹謗中傷を目的とする行為、その他本サービスが予定している利用目的と異なる目的で本サービスを利用する行為 
c. 他人の個人情報、登録情報、利用履歴情報等を、不正に収集、開示又は提供する行為
d. 同一又は類似のメッセージを不特定多数のお客様に送信する行為(当社の認めたものを除きます。)、他のお客様を無差別に友だち又はグループトークに追加する行為、その他当社がスパムと判断する行為
e. 宗教活動又は宗教団体への勧誘行為

<LINE株式会社作成の「LINE利用規約」から抜粋> 

利用者が自由にメッセージを送信することが可能なサービスでは、利用者が第三者の権利を侵害するようなメッセージを送信するおそれがあります。また、利用者同士でメッセージ交換等をすることが可能なサービスにおいては、当該サービス機能が詐欺等の犯罪行為に利用されてしまうおそれがあります。 

したがって、利用者が自由にメッセージを送信・交換することが可能なサービスにおいては、第三者の権利利益を侵害するおそれのあるメッセージや、犯罪行為に該当または関連し得るメッセージを送信する行為、その他何らかのトラブルを誘発するリスクのある行為に関し、該当するメッセージの削除や行為者のアカウント停止等のペナルティを課すことができることを明確化すべく、当該メッセージの送信行為等を禁止事項として明記すべきです。 

上記の禁止事項(a)~(e)は、このような観点から、「LINE」を利用するうえで禁止すべき行為を列挙したものと思われます。 

なお、上記(b)では、「面識のない第三者との出会いや交際を目的とする行為」が禁止事項となっています。これは、インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律(いわゆる「出会い系サイト規制法」)による規制が適用されないようにするための条項だと思われます。すなわち、「インターネット異性紹介事業」(同法2条2号)に該当する場合には、事業届出等の規制が適用されるため、面識のない第三者との出会いを目的としたメッセージ送信がなされないように対処していると思われます。 

また、上記(e)は、霊感商法やねずみ講への勧誘を含めたトラブルに発展する可能性をふまえ、予防的に広く宗教活動等への勧誘行為を禁止事項とするものと思われます。利用者同士でメッセージ交換等をすることが可能なサービスでは一般的な規定といえます。 

Ⅱ 商品売買プラットフォームや商品販売(ECサイト)型のサービスの場合

楽天グループ株式会社が提供する「楽天市場」等は、当該プラットフォームにおいて商品の売買取引が行われるサービスであり、その利用規約には商品売買取引に関して以下の各事項が禁止事項として規定されています。 

a. 犯罪による収益の移転行為及びこれを助長、幇助等すること
b. 購入する意図なく商品の購入を申し込むこと
c. 当社の事前の許可を得ることなく、自動化された手段(自動購入ツール・ロボットなどこれらに準ずる手段)を用いて商品を購入すること(商品ページ上の情報取得等を含む)
d. 正当な理由なく商品を受け取らないこと
e. 正当な理由なく返品等をすること
f. 自己取引、関係者内での内部取引、架空取引

<楽天グループ株式会社作成の「楽天ショッピングサービスご利用規約」から抜粋> 

商品売買に関するサービスでは、商品の売買取引を通じて、マネーロンダリングその他犯罪による収益の移転行為が行われるおそれがあるため、上記(a)の行為を禁止しているものと思われます。 

また、安心安全に利用できるサービスでなければ利用者が集まらないところ、利用者が安心安全に商品を販売・購入できるようにするためには、商品の販売・購入の完了を妨げるような行為や、不正な転売目的の行為を防ぐ必要があるため、上記(b)~(f)の行為を禁止しているものと思われます。なお、この点に関しては、ビジネス法務本誌連載第7回(2023年6月号)のⅡ2「申込拒絶事由・解除事由」もご参照ください。 

なお、利用者がレビューを投稿できる機能を実装する場合には、当該レビュー投稿に係る禁止事項として、上記記載の禁止事項を記載することが考えられます。 

Ⅲ サービス内通貨が存在するサービスの場合

任天堂株式会社がゲームアカウントに関連して提供するサービスは、ゲーム内通貨を利用した取引が可能であり、その利用規約には以下の事項が禁止事項として規定されています。 

a. 当社が意図しない方法で、ニンテンドーアカウントサービス又はショッピングコンテンツに関連して利益を得ることを目的とする行為(ショップ残高やゲーム内通貨等を現実の法定通貨で売買する行為を含みます。)

<任天堂株式会社作成の「ニンテンドーアカウント利用規約」から抜粋> 

サービス内通貨が存在するサービスでは、サービス内通貨やサービス内のアイテム等を現実世界の通貨で売買する、いわゆるリアルマネートレード(RMT)が行われる可能性があります。 

RMTは、必ずしも刑法その他の刑罰法規に直接的な規定があるわけではないものの、アイテム等に係る著作権を侵害するおそれがあるほか、RMTによる利益を目的とした不正行為や、購入者を狙った詐欺行為を助長するおそれがあることから、公正なサービスを維持するために、禁止事項とする場合が多いといえます。
なお、オンラインゲームに関しては、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)が定める「リアルマネートレード対策ガイドライン」や、一般社団法人日本オンラインゲーム協会(JOGA)が定める「オンラインゲーム安心安全宣言」においても、利用規約等においてRMTを禁止する旨を規定することが求められています。 

上記(a)は、以上のような問題意識で、RMTを禁止する旨を規定したものと思われます。 

なお、上記Ⅰ~Ⅲに共通しますが、単に禁止事項を列挙するだけでは実効性に欠けるとも思われ、禁止事項に抵触した場合の各種ペナルティ(利用停止・強制退会・違約金等)もセットで定めておくことが重要です。各種ペナルティに関する解説は、ビジネス法務本誌連載第3回(2023年1月号)をご参照ください。

執筆担当:丸山 駿

筆者略歴

中山 茂(なかやま・しげる)
TMI総合法律事務所 弁護士
コンテンツ、IT業界の分野を中心に取り扱い、会社のガバナンス体制についても広くアドバイスを行う。著書として、『IT・インターネットの法律相談〔改訂版〕』(共著、青林書院、2020)など。

古西桜子(こにし・さくらこ)
TMI総合法律事務所 弁護士
知的財産、ITに関する法務を専門とし、ブランド管理やドメイン保護、エンターテイメント・メディア等の領域・紛争対応を扱う。著書として、『IT・インターネットの法律相談〔改訂版〕』(共著、青林書院、2020)など。

近藤僚子(こんどう・りょうこ)
TMI総合法律事務所 弁護士
IT業界の分野を中心に、訴訟、契約法務から個人情報保護法、労働法の分野まで広く取り扱う。

菅野邑斗(かんの・ゆうと)
TMI総合法律事務所 弁護士
倒産・事業再生、M&A法務、契約法務について広くアドバイスを行う。契約法務に係る著作も多数あり、『業務委託契約書作成のポイント〔第2版〕』(共著、中央経済社、2022)など。

丸山 駿(まるやま・しゅん)
TMI総合法律事務所 弁護士
IT・インターネット業界に関する業務を多く取り扱うほか、スポーツ団体を中心とした法人のガバナンス支援、個人情報関連、訴訟、契約法務等を広く取り扱う。近時の論稿として、「企業のためのメタバースビジネスインサイト:法の観点から見るメタバース 特商法編/利用規約編」(共著、PwC Japanグループウェブサイト、2022)など。

柿山佑人(かきやま・ゆうと)
TMI総合法律事務所 弁護士
倒産・事業再生、訴訟、契約法務、データ関連法務等を取り扱う。著書として、『プライバシーポリシー作成のポイント』(共著、中央経済社、2022)など。

飯田真弥(いいだ・しんや)
TMI総合法律事務所 弁護士
知的財産分野を専門とし、IT・インターネット業界のデータ関連法務、訴訟、契約法務等を多く取り扱う。著書として、『プライバシーポリシー作成のポイント』(共著、中央経済社、2022)など。

林 里奈(はやし・りな)
TMI総合法律事務所 弁護士
IT・インターネットビジネス分野の業務を多く取り扱うほか、ヘルスケア事業に関するサービス設計支援・契約法務等の業務も扱う。

バックナンバー

第1回 規約への同意・わかりやすい規約の実例
第2回 利用規約の変更の条項例、個別同意部分の変更
第3回 利用規約の一般条項、通知先の変更の条項例


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