見出し画像

【著者解説】中小企業は日本の砦(第2回)

中小企業経営者のみなさんが、自社の経営を考える際に役に立つ書籍『中京経済圏モノづくり中小企業の生き残り戦略―自動車部品・金型メーカーに学ぶ』。著者の村山貴俊さんによる全3回のnote連載です。


第1回では、伊藤製作所と明和製作所の経営の特徴を解説しました。今回は、残りの3社を見ていきます。

名古屋精密金型
技術変化を先回りして好機をとらえる


  • 愛知県知多郡東浦町に本社をおく自動車ランプ用の樹脂金型メーカー。日本の3大自動車ランプメーカー全てと取引する唯一の金型メーカー。自動車ランプ金型での市場占有率は33.1%。日本で発売される車の3台に1台

  • 自動車ランプの光源がLEDに変わる際、先回りでその変化にうまく対応することで有利なポジションを獲得に成功

  • 金型製作を支える微細加工の技術および磨き職人の磨きの技

  • ブラザー制度により仕事ができるようになるまで先輩が1対1ないし1対2で後輩を指導。退職率2%、平均勤続年数20年。渡邊会長の仕事への考え方(人の幸せは、自分の能力を高めそれを発揮すること)が興味深い


名古屋精密金型は、愛知県知多郡東浦町に本社をおく自動車ランプ用の樹脂金型メーカーです。日本の3大自動車ランプメーカー(小糸製作所、スタンレー電気、市光工業)すべてと取引する唯一の金型メーカーであり、自動車ランプ用金型での市場占有率は33.1%、すなわち日本で販売される車の3台に1台は同社のランプ用金型が使われていることになります。
同社が成長するキッカケになったのは、自動車ランプの光源の変化です。図1のように、光源がLEDに変わる際に、先回りでその変化に対応することで有利な市場ポジションの獲得に成功しました。

図1 技術変化にいち早く対応し有利なポジションを獲得

もちろんタイミングの良さだけでなく、同社にはランプ金型の設計と製作を支える技術力が備わっています。光源を拡散させるリフレクターの金型を磨きレスで加工できる微細加工技術、また高い透明性と歪みがない大型ヘッドランプの金型を仕上げるための職人の磨きの技こそが同社の有利な市場ポジションを支える中核的資源になっています。外国メーカーなどライバル企業による模倣と競争圧力に対峙する中で、大学などの外部組織と連携して大型のヘッドランプ金型用の生産技術の革新にも取り組んでいます。
同社は、人材育成に積極的に取り組むことで、人材の高い定着率を実現しています。仕事ができるようになると面白くなり定着が進むため、先輩が後輩を1対1ないしは1対2でしっかり指導するブラザー制度を導入しています。渡邊幸男会長の「人の幸せは、自分の能力を高め、それを発揮すること」という考えが、同社の人材育成の根幹にあります。

半谷製作所
技術力と営業力の融合で危機を乗り切る


  • 愛知県大府市に本社をおくプレスメーカー。タンデム、トランスファー、順送、ロボットプレスなど。足回りなどの大物部品

  • 三菱自工の1次サプライヤーとして成長してきたが、三菱自工のリコール隠しの影響で存続の危機に。立地と営業力を活かしてトヨタの2次サプライヤーとしての仕事を拡大。売上の80~90%を占めていた三菱自工向けの仕事は35%にまで低下

  • 営業先の絞り込み、自社の生産技術が活かせる部品領域の絞り込み、1次サプライヤーとして活動してきた生産ラインの特徴を活かす仕事の取り方

  • 海外拠点での取引を起点とした日本国内での系列外からの仕事の新規受注

  • 存続の危機の中で鍛え上げれた営業力=野鳩の精神が大きな武器。半谷社長のリーダーシップのもと、技術力×営業力で新たなポジションを切り拓いてきた


半谷製作所は、愛知県大府市に本社をおくプレスメーカーです。タンデム、トランスファー、順送、ロボットプレスを擁し、自動車の足回りの大物部品の生産を得意とします。元は三菱自動車工業の1次サプライヤーでしたが、三菱自工のリコール隠しの影響で存続危機に直面しました。同社は、立地と営業力を活かしトヨタの2次サプライヤーとしての仕事を拡大することで、その危機を乗り切りました。

図2 同社の開発・生産の流れ

同社の存続と成長にとって、営業力が欠かせない能力になっています。一例を挙げると、インドネシアの海外事業拠点でのトヨタグループの小型車メーカーD社との小型トラック向けの部品受注をキッカケにして、D社が日本国内で投入する新車の足回り部品の新規受注に成功しました。インドネシアでの取引の際に、日本本社の足回りの開発担当者に対して同社の独自の生産技術=プレモフォージング®を売り込んでいました。その開発担当者が新車開発の主査に抜擢された際、プレモフォージング®のことをおぼえていて、その技術を用いてエンドプレートという足回りの部品を開発そして量産することになりました。
限られた資源や人材の中で、同社は、営業先を意図的に絞り込んで営業活動を展開しています。自社の生産技術がより活きる部品領域の識別と絞り込み、調達権限への接近、図2のような1次サプライヤーとしての同社の生産ラインの特徴(特に溶接、塗装、加工、組立)を活かせる仕事の獲得、そして自動車メーカーへの提案に力を入れている1次サプライヤーへの提案などにこだわっています。同社の営業活動は、他のモノづくり中小企業の手本になると思います。

ナガラ
家電から自動車への事業多角化で成長


  • 愛知県名古屋市に本社をおく自動車ボデープレス金型メーカー。もとは家電の大型金型を手掛けていたが、リーマンショックによって家電の仕事がなくなり、自動車ボデーのプレス金型に新規参入

  • 後発ながら参入できた理由は、家電で培った消費者目線からの提案。品質保証をしたうえでナガラのブランド品として金型を提供するという会長の考え

  • 三重工場および大型設備への投資。3Dの可能性をいち早く見抜き、20年間かけて継続的に投資し、理想の設計開発体制を構築

  • 挑戦→成果→成長という人を育てるためのサイクルを生み出す。良い仕事には良い報酬で評価する

  • 名古屋という地域の強みを活かす。集積と人的ネットワークの活用


ナガラは、愛知県名古屋市に本社をおく自動車ボデーのプレス金型メーカーです。元々は家電向けの大型金型を手掛けていましたが、リーマンショックの影響で家電の仕事が全くなくなり存続の危機に直面しました。同社は、自動車ボデーのプレス金型に新規参入することで、その危機を乗り切りました。
早瀬實会長は、後発ながら自動車プレス金型に参入できた理由として、家電で培った消費者目線からの提案、品質保証をしたうえでナガラのブランド品として金型を取引先に提供するこだわりを挙げています。
自動車への新規参入を支えた資源や能力として、同社の優れた3次元の設計・解析能力ならびに大型設備を擁する三重工場があります。早瀬会長は、3次元の可能性をいち早く見抜き、20年間かけて投資を継続し理想の開発体制を着々と構築してきました。

図3 地域の強みが企業の競争力を支える

早瀬会長は、図3のように名古屋ないし中京経済圏という地域の強みが自社の強みに結びつくことを強調します。同社の周辺にはモノづくりに必要な企業や機能が集積しており、さらにその集積内部に仕事を気軽に頼める柔軟な人的ネットワークが形成されているといいます。名古屋のモノづくり中小企業には、自らで仕事を作り出すという意識そして取引先も勉強しているがそれ以上に勉強して提案するという自主・自立の気質があるともいいます。また、名古屋の地銀は中小企業を育てるという姿勢があり、また中小企業も地銀からお金を借りるという好循環が出来ているともいいます。

次回は、連載の最終回です。中小企業の生き残りに必要となる9つの戦略的視点を紹介していきます。

著者紹介

村山 貴俊(むらやま・たかとし)

東北学院大学経営学部教授
専門分野:国際経営論、中小企業論、経営戦略論、経営組織論、観光経営論
経歴や研究業績の詳細は、researchmap(村山 貴俊 (Takatoshi Murayama) - マイポータル - researchmap)をご参照ください。

バックナンバー・第3回の予告

第1回 目次
なぜ中小企業の研究が求められるのか
第1章 伊藤製作所高い技術力と経営者のリーダーシップ
第2章 明和製作所積極的な海外進出で競争力構築

第2回 目次

第3章 名古屋精密金型 技術変化を先回りして好機をとらえる
第4章 半谷製作所 技術力と営業力の融合で危機を乗り切る
第5章 ナガラ 家電から自動車への事業多角化で成長

第3回 目次
中小企業の生き残りに向けた9つの戦略的視点
本書の使い方と学び方

#中央経済社 #書籍紹介 #著者解説 #学術・論考
#経営 #中小企業 #中京経済圏

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!