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【不安に感じる管理職必見!】コロナ禍に伴うテレワーク時の労務管理

本記事は、2020年5月11日に中央経済社緊急情報発信サイト「新型コロナ危機下のビジネス実務」に掲載した記事のアーカイブです。
コロナ対策として臨時措置的にテレワークを導入した企業も多いはず。今後の有効なテレワーク運用のために課題の見直し・解消に取り組まれてはいかがでしょうか。
【ひな形付】コロナ禍に伴うテレワーク導入時の社内規程作成と助成金申請もあわせてご覧ください。

中央経済社note編集部

毎熊典子
毎熊社会保険労務士事務所代表 特定社会保険労務士

コロナ対策としての全社一斉のテレワーク

緊急事態宣言を受けて、急遽、テレワークを導入した企業からは、従業員の労務管理方法を含め、運用に戸惑う声が多く聞かれる。従前よりテレワークを実施している企業でも、出社している従業員よりもテレワークを行っている従業員のほうが多いという状況は、これまで経験したことがないところがほとんどであろう。

緊急事態宣言を受けて全社一斉のテレワークを開始した某大手電機メーカーでは、数千人の従業員が業務開始時に一斉に社内システムにアクセスしたことでシステム障害が発生し、復旧までに半日以上を要する事態が発生した。また、他社に先駆け全社一斉のテレワークを開始したIT企業も、数日後には、郵便物の受け取りなど出社しないとできない業務に対応するため、一部交代制勤務へと切り替えることとなった。

不慣れなテレワークに戸惑うのは、従業員の側も同じである。テレワークでは、社内システムへのアクセスやテレワーク用ツールの利用が必要となるが、日頃テレワークを行っていない従業員にとっては、技術的にも心理的にも負担が大きい。特に、日頃、上司や先輩社員から逐次指示を受けながら業務を行っている従業員は、自宅で1人仕事をすることに不安を感じるであろう。

企業には、このような状況においても、従業員が安心して業務を遂行できる体制を整えることが求められる。

テレワークの目的

従前よりテレワーク制度を導入していた企業は、テレワークの目的として、「労働生産性の向上」や「ワークライフバランスの実現」等を掲げているところが少なくない。

しかし、現在多くの企業が行っているテレワークの目的は、従業員の安全の確保と事業継続の両立にある。平常時であれば、テレワークの適用対象とされていない従業員にもテレワークを行わせる必要があり、通常よりも労働生産性が下がるケースが生じたとしても、ある程度は容認せざるを得ないであろう。

特に、コロナ対策として急遽テレワークを導入した企業の場合、企業側の準備が整っていない中、従業員が不慣れな環境で業務を行っていることを考えれば、事業の継続を確保できていれば、合格としてよいと思われる。

労務管理上の留意点

就労ルールの周知

急遽のテレワークの実施でも、テレワークを行うにあたり従業員が最低限遵守すべき事項をマニュアル等に簡潔にまとめて周知することが望まれる。周知すべき具体的事項としては、次のものが挙げられる。

  • 勤怠管理に関する事項(始業・終業時刻の確認方法や休憩時間など)

  • 時間外労働や深夜・休日労働に関する事項

  • 社内システムへのアクセス方法やコミュニケーションツール等の利用に関する事項

  • 情報セキュリティに関する事項

  • 業務上の報告・連絡・相談に関する事項

管理職による指導・管理

突然、部下が目の前からいなくなったことで不安を覚える管理職は少なくないと思われるが、管理職には部下の業務スキルや日頃の勤務状況を踏まえた指導・管理を行うことが求められる。

日頃の業務遂行の状況から判断して、自律的に業務を進められる部下には、実施すべき業務内容や業務遂行のスケジュール(納期)について指示を出し、あとは部下に任せ、確認や指示を求められた際にだけ対応することで足りるものと思われる。必要以上に報告を求めたりすると、かえって業務効率を下げることになりかねない。テレワークでは、部下を信頼することも大事である。

他方、新入社員など、自律的に業務を遂行することが難しい従業員に対しては、積極的にコミュニケーションを図り、業務遂行に必要な指示をこまめに与え、逐次報告させることが望ましいと考えられる。

新人研修の実施

コロナ対策の時期と新入社員の入社時期が重なり、入社式を取りやめた企業は少なくない。入社時の研修もままならない状況となっているが、デジタルネイティブ世代の新入社員は、インターネットを活用した研修にも馴染みやすいものと思われる。

たとえば、会社のPCを貸与して、マナー研修にe-Learningを利用したり、報連相の練習をSkypeやZoomなどのツールを利用して行ったり、WEB会議でプレゼンテーションの練習をさせたりすることが考えられる。新入社員の歓迎会を流行りの「リモート飲み会」で実施してもよいだろう。

従前の方法にこだわらず今できる方法を検討することは、今後の研修のあり方を見直す良い機会にもなると思われる。

育児期間中の従業員への対応

緊急事態宣言下では、保育園や小学校も休園・休校となり、小さな子供の世話をしながらテレワークを行わざるを得ない従業員も少なくない。企業がフレックスタイム制を導入していれば、育児にかかる時間は業務外の時間として扱うことが可能である。また、就業規則で始業・終業時刻の繰上げ・繰下げが可能となっていれば、休憩時間を通常時より長く設定した上で複数回に分けて取得することを認め、育児にかかる時間を休憩時間として扱うことが考えられる。

これらの規定が就業規則にない場合でも、半日休業や半日単位あるいは時間単位の有給休暇の取得などにより、1日の労働時間を短くするなどの対応が考えられる。
労働時間や休憩時間に関しても、緊急事態宣言下にあることを踏まえ、従業員が置かれている状況に配慮した柔軟な対応が求められる。

出社せざるを得ない従業員の労務管理

コロナ対策として、政府がテレワークを推奨する中で、業務上の必要性から出社を余儀なくされている人達もいる。企業は、労働安全衛生法に基づき、従業員が安全に働ける環境を整える責務を負っており、テレワークができない従業員についても、適切な労務管理を行うことが求められる。

具体的対応としては、出社日数を可能な限り減らせるようにシフト制勤務としたり、時差出勤により通勤時のリスクを低減させたりするほか、多人数での会議を禁止する、一定の距離を取るよう座席の配置を見直す、消毒剤を配備してこまめな手洗いやアルコール除菌を促すなどの感染防止対策を講じることが考えられる。

厚生労働省は、「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト(事業主向け)」を公表している。感染防止のための基本的な対策やクラスター発生防止のためのポイントがまとめられており、従業員を出社させざるを得ない企業では、このチェックリストを参考にして、自社に適した感染防止対策について検討・実施することが望まれる。

なお、決裁業務を行う従業員が押印のためだけに出社を余儀なくされていることがニュースなど(※1)で問題視されているところであるが、テレワーク支援として電子印鑑などのツールも提供されており、こうしたサービスを利用することで従業員を出社させないことが可能となりうる。今回の事態を契機に、決裁業務のあり方自体を見直す企業が増えるのではないだろうか。

(※1)たとえば、「ハンコ押すため出社…契約書類、在宅勤務の壁」(日本経済新聞2020年4月2日配信)等を参照。

まとめ

新型コロナ対策としてテレワークを実施している企業では、柔軟な働き方のヒントを得るなど多くの気づきが得られた一方で、解消すべき課題も多く見つかっているであろう。今後も同様の事態が発生する可能性があり、今回の事態終息後においても、BCPの一環としてテレワークを制度として運用することを検討する企業も増えると思われる。

将来に向けた事業の維持・発展のためにも、今回発見した課題をそのままにせず、業務フローを根本的に見直すなどして、課題の解消に積極的に取り組んでいくことが望まれる。そして、非常時においてテレワークを有効に活用するためには、平時におけるテレワークの継続的な運用が必須であることを忘れてはならない。

著者紹介

毎熊 典子(まいくま・のりこ)
毎熊社会保険労務士事務所代表 特定社会保険労務士
慶應義塾大学法学部法律学科卒。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会認定上級リスクコンサルタント。東京商工会議所認定健康経営エキスパートアドバイザー。『これからはじめる在宅勤務制度』(中央経済社、2018)ほか、労務リスクマネジメントに関する執筆多数。