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規約への同意・わかりやすい規約の実例|【連載】ITサービスにおける「利用規約」作成のポイント(第1回)

Ⅰ 『ビジネス法務』連載および本記事について

(1)本記事の内容

本記事は、ビジネス法務本誌で、2022年11月号より連載している「ITサービスにおける『利用規約』作成のポイント」に関連する情報として、

  • 雑誌連載において記載できなかった項目

  • 利用規約における具体的な条項例

  • 実在する企業の利用規約の比較・検討

等を掲載するものです。

本誌連載は、企業の法務部員・事業担当者が、ITサービスにおける「利用規約」を作成する場面で、注意すべき点を広く検討・確認することを目的としています。本記事は、本誌連載の内容を補完し、より理解に役立つような参考情報を掲載します。

(2)本連載の視点

本誌連載および本記事の1つの視点として、「利用規約の各条項の意義を確認し、必要かどうかを吟味する」という点が重要と考えています。

本誌連載第1回(2022年11月号掲載)でも記載したとおり、利用規約は基本的に事業者が作成するため、事業者側に有利になるように作成されることが多いです。一方で、利用者はほとんどの場合は内容を読まず、仮に利用規約を読んだとしても、その内容について、事業者に異議を唱えて議論するようなことは、あまり想定されないと思われます。

すなわち、利用規約は事業者と利用者間の権利関係を定める重要なものである一方で、利用者側がその内容にあまり関心を持たず、読むことさえしないことも多いという特殊な面があります。

そのような利用規約の特殊性も考慮しつつ、事業者側で利用規約の内容を適切なものに保つこと、利用者の理解・関心を高めることは、重要な点と考えています。最近では、利用規約の条項の有効性が問題とされるケースも徐々に増えていることもあり、利用規約の内容を改めて吟味することは、大事なポイントといえます。

利用規約は、現実には前例や他社事例をベースに、漫然と作成されることも多いですが、なるべく不要な条項は削除し、必要な点をわかりやすく抽出し、少しでも実効的なものにすることが、本連載の1つの目的です。

Ⅱ 第1回「『利用規約』作成時の最初の視点」の関連情報

今回は、本誌連載の第1回に関連して、

(1)利用規約への同意に関する条項
(2)利用規約をユーザーにわかりやすく伝える取組み

について記載します。

(1)利用規約への同意に関する条項

本誌連載第1回では、利用規約に対する利用者からの「同意」について、法的なポイントを解説しました。具体的には、

  • 利用規約において、そもそも利用者の明示的な「同意」は必要か

  • 利用者から「同意」を取得する場合、どのように取得するのがよいか

という点について記載しましたが、簡単な概要は以下のとおりです(詳細についてはぜひ本誌連載第1回を参照ください)。

① 利用者の「同意」は必須か
民法における定型約款の規定上、利用者の明示の同意は必須の要件ではない。したがって、利用規約において、利用者の明示の同意をとることは必要不可欠とはいえない。
ただし、不当条項の問題については、利用者の同意を得ていたほうが、条項の効力を否定されるリスクを低減できる。

②「同意」をどのように取得するか
実務上は、同意ボタンへのクリックや、チェックボックスにチェックさせる方法が多い。
利用規約を表示する方法として、リンクによる表示や、全文をスクロールさせる方法もある。
ただ、全文をスクロールすることを義務づけたとしても、実際に、利用者が内容を確認するかという観点からは、あまり差異はないと思われる。
利用者に不利な条項などは、当該条項だけを別途要約したり、強調したりして表示する方法が検討されるべきと思われる。

利用規約に対する「同意」についての検討ポイントは上記のとおりですが、付随する議論として、利用規約内の条項において、以下のようなものが入っている例がみられます。

【条項例①】
お客様が本サービスを利用した場合は、本規約に同意したものとみなされます。

【条項例②】
お客様は、本規約に同意することにより、本サービスを利用することができます。

本誌連載第1回でも記載したとおり、条項例①を利用規約中に入れたとしても、利用規約を利用者に明示し、何らかのアクションを得ることがまったくなければ、それだけで利用者の同意があったとみなすことは、難しいと考えられます。また、このような条項については、不当条項に該当するため削除が望ましいとする見解もあります。

これに対して、条項例②のほうが、表現としては穏当と考えられますが、これについても、この条項を入れるだけで利用者の同意があったとすることは困難であり、その点は同様と考えられます。

したがって、利用規約に対する「同意」の観点からは、上記の条項例を利用規約の中で定めるだけでは十分とはいえず、事業者が利用者の同意を得てサービスを進めるためには、利用規約を利用者に明示し、一定の同意のアクションを求めることが必要と考えられます。

ただし、上記のような文言が、利用規約中の1つの条項としてではなく、たとえば、利用者がサービスを開始する最初の画面等で表示されていれば、その場合は、「利用者に対し、サービス利用の際に利用規約の同意が必要である」ということを認識させる役割を果たすと思われます。

したがって、上記の条項例については、利用者の目に触れない利用規約の条項中に入れておくだけではあまり意味がないが、利用開始の時点で利用者の目に触れさせる場所に表示させる場合であれば一定の意味がある、という整理になると考えられます。

(2)利用規約をユーザーにわかりやすく伝える取組み

冒頭に記載した本連載の趣旨のとおり、利用規約は事業者にとって一方的になりがちであるところ、その内容を利用者にわかりやすく伝えることは重要と考えられます。

その観点から、実在の企業における利用規約の例において、わかりやすく参考になると思われるものを紹介します。具体的には、

  • ヤフー株式会社が提供する「Yahoo! JAPAN利用規約」

  • Twitter, Inc.が提供する「Twitterサービス利用規約」

は、ユーザーにとってわかりやすくする工夫がなされている例と思われます。

  • Yahoo! JAPAN利用規約
    「基本ガイドライン」と「個別ガイドライン」に分かれた体系が冒頭に説明され、利用規約の各条項について、目次から各ページに飛べるようになっており、閲覧するうえでわかりやすいと思われます。

  • Twitterサービス利用規約
    タイトルのフォントサイズが(非常に)大きく設定されており、見出しとのメリハリや、重要な内容がフォントで強調されている点はわかりやすいと思われます。

上記のほか、

  • 株式会社メルカリの提供するメルカリ利用規約

に関して、利用規約の変更内容を伝えるお知らせのページとしてわかりやすい例がありますので、紹介します。

  • メルカリの利用規約の変更についてのお知らせ
    改定前と改定後の文言が記載され、視覚的にもわかりやすい記載がなされています。また、改定の趣旨についても記載されており、利用者にとってはわかりやすいと考えられます。なお、法的な観点からしても、本誌連載第2回(2022年12月号掲載)で触れた、定型約款変更の要件充足を基礎づける事情となり得ると考えられます(具体的には、実体的要件としての「その他の変更に係る事情」、手続要件としての「変更後の定型約款の内容…周知」)。

これらの工夫は、利用者との関係で、利用規約を少しでも実効的なものとするという観点からは重要であり、参考になるものと考えられます。

執筆担当:中山 茂

筆者略歴

中山 茂(なかやま・しげる)
TMI総合法律事務所 弁護士
コンテンツ、IT業界の分野を中心に取り扱い、会社のガバナンス体制についても広くアドバイスを行う。著書として、『IT・インターネットの法律相談〔改訂版〕』(共著、青林書院、2020)など。

古西桜子(こにし・さくらこ)
TMI総合法律事務所 弁護士
知的財産、ITに関する法務を専門とし、ブランド管理やドメイン保護、エンターテイメント・メディア等の領域・紛争対応を扱う。著書として、『IT・インターネットの法律相談〔改訂版〕』(共著、青林書院、2020)など。

近藤僚子(こんどう・りょうこ)
TMI総合法律事務所 弁護士
IT業界の分野を中心に、訴訟、契約法務から個人情報保護法、労働法の分野まで広く取り扱う。

菅野邑斗(かんの・ゆうと)
TMI総合法律事務所 弁護士
倒産・事業再生、M&A法務、契約法務について広くアドバイスを行う。契約法務に係る著作も多数あり、『業務委託契約書作成のポイント〔第2版〕』(共著、中央経済社、2022)など。

丸山 駿(まるやま・しゅん)
TMI総合法律事務所 弁護士
IT・インターネット業界に関する業務を多く取り扱うほか、スポーツ団体を中心とした法人のガバナンス支援、個人情報関連、訴訟、契約法務等を広く取り扱う。近時の論稿として、「企業のためのメタバースビジネスインサイト:法の観点から見るメタバース 特商法編/利用規約編」(共著、PwC Japanグループウェブサイト、2022)など。

柿山佑人(かきやま・ゆうと)
TMI総合法律事務所 弁護士
倒産・事業再生、訴訟、契約法務、データ関連法務等を取り扱う。著書として、『プライバシーポリシー作成のポイント』(共著、中央経済社、2022)など。

飯田真弥(いいだ・しんや)
TMI総合法律事務所 弁護士
知的財産分野を専門とし、IT・インターネット業界のデータ関連法務、訴訟、契約法務等を多く取り扱う。著書として、『プライバシーポリシー作成のポイント』(共著、中央経済社、2022)など。

林 里奈(はやし・りな)
TMI総合法律事務所 弁護士
IT・インターネットビジネス分野の業務を多く取り扱うほか、ヘルスケア事業に関するサービス設計支援・契約法務等の業務も扱う。


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