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ジョージタウン大学|【連載】Study Abroad Journal—留学体験記—(第1回)

私は2022年7月から、Georgetown University Law CenterのNational and Global Health Law LL.M.に留学しています。

留学先を決めた理由

留学先を決めるにあたり、私は業務との関連性を重視しました。日本にいた頃は訴訟・紛争解決案件に加えて薬事・医事規制を中心としたヘルスケア案件を扱っていたため、留学にあたり、米国のFood and Drug Lawを中心としたHealth lawを深く学びたいと考えていました。

この点ジョージタウン大学は、①Health law LL.M.がありHealth Lawに関連するさまざまな授業が開講されていたこと、②Food and Drug Lawの授業がCertificateの必修科目として指定されており、特定の教授の都合に関わらず毎年開講されていそうであったこと、③エクスターンシップ制度やワシントンD.C.に所在するという場所柄もあって、米国食品医薬品局(FDA)を含む規制当局や業界団体、多くの弁護士と交流できる可能性があることなどから、留学先に選びました。

ロースクールでの生活

ジョージタウン大学では、食品やタバコ製品に関する規制を含めたFood and Drug Law全般を広く学ぶ基礎的な授業と、医薬品・生物製剤、医療機器について深く学ぶ応用的な授業が開講されています。いずれもJ.D.主体の授業であり、ともにFDAでの勤務経験もある弁護士が教鞭をとっていました。特に後者を担当している弁護士は、法令やガイドライン等の規制のみならず、バイオテクノロジーや臨床統計、ビジネスにも造詣が深く、同じ弁護士として大いに刺激を受けました。授業内容も、時に生物や有機化学の知識を前提に進められることもあってハイレベルでしたが、日本の規制や実務を考えるうえで多くの示唆に富んでおり、充実していたと思います。

Food and Drug Law以外では、HIPAA(医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律)等の米国における医療データの取扱い等を学ぶ授業や、生命倫理等を扱う授業、医薬品・生物製剤に関する特許法・独占禁止法に関する判例を集中的に学ぶ授業、世界中の薬事規制を広く学ぶ授業等を受講しています。

また、秋学期には、大学と連携しているO'Neill Institute(オニール研究所)でリサーチアシスタントとして勤務していました。O'Neillでは、週に一度、Health Lawに関するさまざまなトピックについて、第一線で活躍しているゲストスピーカーを招いて1時間ほどの勉強会が行われていました。Health Lawがカバーするトピックは膨大ですが、履修できる授業数は限られているため、この勉強会を通じて自分の視野や興味関心を広げることができたのはとても有意義でした。特に今年は、昨年連邦最高裁がRoe v.  Wadeを覆したことに伴って生じた人工妊娠中絶に関する法制度や訴訟、来年のWHO総会での採決が目指されているパンデミック条約などタイムリーなトピックも多く、時に白熱する議論に触れることができました。

訴訟・紛争解決業務との関係では、ジョージタウン大学のSupreme Court Institute(SCI)での模擬法廷での経験が印象的でした。SCIの模擬法廷は、D.C.にある連邦最高裁判所で口頭弁論(Argument)が開かれる1週間ほど前に、実際に弁論を行う代理人がジョージタウンの模擬法廷に立ち、裁判官役の教授や弁護士の前で口頭弁論を行うというもので、学生も傍聴することができます(もちろん連邦最高裁で本番を傍聴することもできますが、整理券を求めて早朝から連邦最高裁へ行く必要があります)。この模擬法廷での口頭弁論では、本番同様、裁判官役の教授達から代理人に対して次々と質問が投げかけられ、代理人もこれに当意即妙に回答するという丁々発止の議論を傍聴することができます。弁論の後は、教授達から代理人に対してフィードバックが行われて終了するのですが、口頭弁論のあり方やこれに臨む訴訟代理人の準備の仕方など、さまざまな点で日米の違いを感じました。なお、私はAmgen Inc. v. Sanofiという特許侵害事件を傍聴したのですが、連邦最高裁でこの事件の口頭弁論が行われた週の授業では、Amgenの社内弁護士の方がゲストスピーカーとして招かれており、事件に関するさまざまな背景事情を伺うという幸運にも恵まれました。

ジョージタウン大学のローセンター自体は多数の学生を擁していますが、Health law LL.M.に在籍している学生は20名程度です。同級生は米国自体を含む世界各国から集まっており、Health Lawに関する職務経験や興味関心もさまざまで多様性に富んでいますが、LL.M.単位でのイベントも頻繁に企画され、また必修授業もあるので、同級生同士の仲は深まりやすい環境だと思います。たとえば、先日南米コロンビアへ旅行したのですが、この時は同じLL.M.に在籍しているコロンビア出身の同級生達の手厚いサポートを受けることができたおかげで、現地ではかなり貴重な体験をすることができました。

ワシントンD.C.での生活

治安は日本に比べるとあまり良くありません。私はD.C.の街中にあるレンタサイクル(ジョージタウンの学生なら年間25$で乗り放題です)で大学に通うことが多いのですが、大学や自宅の近くで発砲事件が起きることもあり、特に夜間になる帰宅時には慎重にならざるを得ません。

また物価も、果物や一部のブランド品などは日本より安いこともありますが、生活と密接に関連する家賃や外食費は日本よりもかなり高めなので、アジア食材の通販サービスを利用するなどして自炊することも多いです。
他方で、D.C.には、世界銀行やIMFといった国際機関、各国大使館や一流のシンクタンクが所在しており、多様なバックグランドを持った専門家が集まっています。日本と馴染みが深い機関に限っても、在米大使館、経団連の事務所などがあり、こうした機関で勤務している方々と交流ができることもD.C.で留学する利点かと思います。

また、キャンパス外での交流という意味では、近所で見つけた柔道場にも通っています。大学卒業以来、10年ほどブランクがあったものの、日本人が1人だけという環境もあってか歓迎してもらっています。

著者略歴

中野進一郎(なかの・しんいちろう)Nakano Shinichiro
森・濱田松本法律事務所 弁護士。2013年東京大学法学部卒業、15年弁護士登録。22年、O'Neill Institute for National and Global Health Law勤務。現在、National and Global Health Law(LL.M.)に留学中。主な著書に『ヘルステックの法務Q&A〔第2版〕』(商事法務、2022)、「連載:事例でわかる ヘルスケア業界への異業種参入ポイント」第1回〜第4回(『ビジネス法務』2022年7月号〜10月号)など。


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 本記事は、月刊誌『ビジネス法務』掲載記事を一部修正したものです。
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