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「データない問題」に立ち向かう。|【連載】データ分析のログハウス(第6回)

~旬刊経理情報連載
「データ分析の森」ガイドマップ 番外編~

本誌では「『データ分析の森』ガイドマップ」を連載中。DXやリスキリングなどで注目される「データ分析」について、その具体的な中身や取り組み方などをやさしく丁寧に解説していただいています。
この連載では、本誌連載では書ききれなかった、主にデータ分析に関わるキャリアや事業について、ざっくばらんにひもといていただきます。
第6回は「データがない、分析手法がわからない」という、ありがちなお悩みについてお話いただきます。

中央経済社「旬刊経理情報」編集部

みなさん、こんにちは。
遠藤武(えんどう・たける)です(著者紹介はこちら)。

おやおや? おたんさん、今日はご機嫌な様子です。

おたん(データ分析に興味がある悩める大学生):
モデリングの理解も進み、統計学やデータ分析の全体像が見えてきて、面白くなってきたところです!
一方で、世の中のデータ分析って「こんなデータを使って分析した!」という勝ちパターンばかりで、「分析を始めたいけど、データがそもそもない」というケースがなかなか見えてこないと思いました。
研究でデータを扱うとき、データがないとか、データを取るのが大変とか、分析手法をどう使うか悩むことがありますが、企業ではどうなのですか?

なるほど、とても鋭い質問ですね。
たしかに、データ分析で「こんなデータを使った!」「成功した!」というパターンはあちこちで見かけますが、「データがない・分析手法がわからないため苦しい状況」への言及は、ほとんど見かけませんね。

今回はその状況を、ありのまま探ってみましょう。


「データない問題」は、
データ分析で100%直面する問題。

本部長:データドリブン組織を作ります! データ分析を始めましょう!
部長・課長・社員:はい! 分析するデータはどこにありますか?
本部長:今はありません! まずこれから1、2年かけて、データを蓄積し、チームで分析を行っていきましょう。そうやって全社を盛り上げましょう!

…データ分析を始めるとき、
まずこのような「データない問題」に直面します。

「データない問題」とは、
データ分析を行ううえで「データがない・分析リテラシーがない」問題と置くことができます。

たとえば、どのような企業の場合でも、まず手元にあるデータは、複式簿記のルールで記帳した財務会計データくらいです。
そのうえで最低限のリテラシーとして、貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)を作ります。
このほか、最低限の顧客台帳や取引先リストがあると思います。

ということは、企業をゼロから作って最初に事業を始めた場合、財務会計のデータもない、顧客台帳もない、データ分析ツールもない、分析のリテラシーもないという状況は、至極当然です。
どんな組織も最初は100%例外なくデータゼロですから。

これはちょうど、研究でデータを集めるに際し、
「データがない! どうしよう!」
「分析手法がよくわからない! どうしよう!」
となることと、全く変わりません。

「データない問題」については、
研究と同じ悩みが、企業でも起こっているといえます。

「データない問題」を直視する。

おたん
なるほど! ということは、「データない問題」そのものが悪いのではなく、「そこからどう学んでいくか?」が大事なんでしょうか?

さすがおたんさん、いいところを突いています!
そのとおり、「データない問題」自体が悪いわけではありません。

「今まで紙だった店舗ごとの売上台帳を、クラウドデータベース化してBIツールで分析を始めた」
「今までExcelで運用していた営業管理を、クラウドツールに置き換えた」
「そのためにリテラシーを向上させた」

となれば、まずはデータを集めて組織を整えることそのものに、価値があります。

「データない問題」で一番しんどいのは、
そもそも「データない問題」を環境から支える発想がなく、学ぶための期間やコスト、その道筋が見えないケースです。

データ分析のゴールはあっても道筋が不透明であるとか、
中長期的にデータ分析で組織を変えていく視点がないとか、
そもそもクラウド化やBIツールを使わないとか、
データ分析を行う人を育てない・雇わない・厚遇しないといった状況では、
いくらデータ分析をしようとしても、そのための環境が整っておらず、活用する前に頓挫してしまいますね。

思いつくままに「データない問題」で起こる失敗ケースを挙げると、

  • 顧客の動きをリアルタイムに観察して、粗利と売上を最大化したい
    失敗ケース:データが足りない。BIツールを用いていない。分析担当者の権限や待遇が小さいため、人が集まらない・育たない。

  • 需要予測を強化し、在庫を最適化し、SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)を強化したい
    失敗ケース:データが集まらない。現場のリテラシーが低い。

といったものが挙げられます。

これらはどう解決するかというと、
一定の期間をかけて整備し、リテラシーを学ぶコストを出し、
「データない問題」を直視するしかないんです。

本部長は「データない問題」を一番素直にみていた。

実は最初に挙げた、

本部長:(データは)今はありません! まずこれから1、2年かけて、データを蓄積し、チームで分析を行っていきましょう。そうやって全社を盛り上げましょう!

という言い方は、とても素直に「データない問題」の事実を直視した、道筋の示し方です。

なぜ素直に「データない問題」を直視すべきなのか?
データ分析は、組織がトップダウンで声をかけることも大事ですが、
それと同時に、組織の個々人がボトムアップで動くことも大事だからです。

この本部長の組織を想像してみましょう。
日本全国に全体で1,000店舗のお店があり、この本部長は、経営戦略部門(企画、財務、マーケティング、IT全般を扱う部門)を率いています。
経営戦略部門以外には、店舗開発部門(店舗の不動産を取得し、物件の投資対効果を測る)や、事業運営部門(店舗運営を統括し、店舗で働く店長やスタッフを支える)があります。
それらの部門にも、「データない」状態を脱し、社内の共通語としてデータを使ってもらう必要があります。

「データない」状態は、従来の紙で運用するというオペレーションによって生じているものでした。
紙をやめてデータで考える組織に変えていくという使命が、経営戦略部門の本部長にあったのです。

1,000店舗全体を変えると、そこに関わる人も組織も変わります。
「データない」状態から変わるということは、どこか組織立ち上げにも似ているのです。

「データを使え!」「分析しろ!」と言って、 明日から「はい! そうします」と動くことはできるでしょうか?

さすがに誰も動きませんし、紙での運用を変えるというのは、掛け声だけではできませんね。 馬を水辺に連れて行くことができても、無理やり水を飲ませることなど、誰にもできないのです。

まずは、事実をちゃんと示して権限を移譲し、ついついみんなが動いてしまう「仕組み」を作っていくことが重要です。そして、そのような「仕組み」づくりを組織で実行するには、思いのほか勇気が必要です。

ないならば、ないところを認める。
ゼロイチの組織を立ち上げるかのごとく始める。


これは、データ分析の最低限のリテラシーだということですね。
これをわかっていると、全社に良いインパクトを与えることができるのも、データ分析の面白さです。

データ分析にまつわる素朴な疑問でもよいですし、
他の「こんなことが気になる!」でも、
ついつい湧き出る妄想でも構いません。
すべては、何かを始めるためにうってつけの理由です。

それでも「やっぱり不安だな…」という物事があれば、
お気軽にログハウスのドアをノックしてくださいね。


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「データ分析のログハウス」は、旬刊『経理情報』2022年7月10日号からスタートした連載「「データ分析の森」ガイドマップ」との連動記事です。
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バックナンバー

第1回 ログハウスができたよ!
第2回 「データ分析の人材市場」を分析したよ!(※属性つき)
第3回 FP&Aが「つまらない」は本当?
第4回 リスキリングの本質って何?
第5回 ゼロから始める事業立上げ 財務モデリングを超シンプルに!


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