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Play to Earn事例で考えるメタバースの収益モデル|【連載】メタバース・ビジネスの歩き方(第3回)

こんにちは。中央経済社note編集部会計実務担当です。
なんでも自由民主党が2022年6月5日に「メタバース演説会」を開催し、広報本部長の河野太郎氏が500名ほどの前で熱弁をふるったそうです。岸田総理肝いりの「新しい資本主義実現会議」も5月31日に「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(案)」を公表しており、この中でも、「メタバースを含めたコンテンツの利用拡大」について「来年の通常国会に関連法案の提出を図る」など、制度面でも注目すべきトピックとなっています。
さて、連載第3回目です。前回は、メタバースイベントの進め方を解説していただきました。メタバースといえど、ビジネスにはおカネが必要です。やはり「ご利用は計画的に」というビジネスの基本が大切であることを確認しました。そうすると、「どうやっておカネを稼げばよいの? そもそも稼げるの?」という疑問が生じます。今回は、メタバースの市場規模を確認したうえで、Play to Earnの事例をいくつか分析しながらメタバースビジネスの収益モデルについて考えてみたいと思います。

メタバースの市場規模

メタバースは、果たしてどのぐらいの市場規模が期待できるのでしょうか。     
確かにメタバースでは世界とつながることができます。だからといって、市場が世界に広がっていると即断するのは、現段階では楽観的すぎるかもしれません。私は言語の問題から大半の日本のメタバースは、日本人を相手にビジネスを行わざるを得ないのではないかと考えています。

そうすると、日本の消費市場がどのぐらいになるのかという点から検討する必要があるでしょう。まず、消費者庁の調査によると、2019年の日本における家計消費は約297兆円と言われています。そのうち、EC(Eコマース)の市場規模は、経済産業省の調査によると、同じ2019年で約19兆円となっており、消費全体の約6.3%に過ぎません。
さらに内訳をみていくと、物販系分野が約10兆円、旅行や飲食などのサービス系分野が約7兆円、ゲームや動画などのデジタル系分野が約2兆円となっています。メタバース内では物流が発生しないビジネスが望ましいと思われますので、この市場規模の中ではデジタル系分野の2兆円が主なターゲットになると思います。
ただし、これからメタバース市場で新たな売上を作り出すことにはかなり時間がかかると思われますし、開発に何十億円もかけているゲーム会社やすでに一般に普及していると思われる電子書籍も含めて2兆円規模ですので、結果的に数億円いけば良いほうなのではないでしょうか。

また、広告媒体として考えた場合も、日本のデジタル広告市場の規模は、電通の調査では2021年で約2兆7,000億円であるとされています。やはりこの中でメタバースが大きなビジネスポーションを占めるようになるにはまだ時間がかかると思われます。
そう考えていくと、メタバースの中に閉じたビジネスを考えるよりは、EC以外の93%の市場である現実世界と連携した「メタバースを活用したビジネス」が成功への近道であり、結果的に得られる収益も世の中に与えるインパクトも大きくなると考えられます。

現実×メタバースのビジネスモデル

事例1:STEPN

現実世界の活動とメタバースの連携事例としてはSTEPNが挙げられます。STEPNを始めるためには、まずNFTスニーカーをSOLという暗号資産で購入する必要があります。そのNFTを所持して実際に歩くことで、GSTというSTEPNオリジナルのトークンがもらえるというブロックチェーンゲームです。歩けば歩くほどスニーカーのレベルが上がり、稼げるGSTも多くなっていきます。また、スニーカー同士を掛け合わせて新たなスニーカーを生み出すことも可能であり、そのスニーカーをOpenSeaなどのNFT市場で売却することが可能です。

STEPNの収益源は何かというと、NFTスニーカーを発行して販売する費用です。1つのスニーカーが大体10万円ぐらいで販売されます。このNFTスニーカーの収益が、運営コストの原資やGSTの裏付け資産になっているわけです。
このスキームは、多くの「Play to Earn」と呼ばれるブロックチェーンゲームで実装されているものですが、販売されるものは、スニーカーやキャラクター、土地など、様々なメタバース内の資産です。こうしたメタバース内の資産は、たいていの場合、数に上限を設けて販売されます。供給が絞られていることや、それに伴い値上がりが見込めるということですぐに売り切れることが多く、二次流通も活発に行われています。

メタバース内資産を活用する場合の懸念

このスキームには、以下のようにいくつかの問題があります。

① 裏付け資産がないために価値が曖昧である。
② トークンの発行上限が曖昧なために価値の低下を招くおそれがある。
③ 新規入会者が減ることで収入源が断たれるおそれがある。
④ 早く始めた人が圧倒的に有利である。

Play to Earnのビジネスモデル整理

「Play to Earn」のビジネスモデルを図にまとめてみました。

【図表】Play to Earnと収益源

(出所)著者作成

まずは、ゲームに参加するために、法定通貨で、専用のユーティリティトークン(ゲーム内の決済で使うコイン)やガバナンストークン(ブロックチェーンの議決権)、キャラクターなどのNFTを購入します。そしてゲームに参加すると、次のように、トークンやNFTアイテムを得られる様々な機会があります。

① ステーキング(ガバナンストークンを保存することにより金利としてコインが発行される)を行う
② プレイ内容に応じゲーム内のコインを取得する
③ NFTを掛け合わせて新たなNFTを作り出す(Mintといいます)
④ 得られたコインやNFTアイテムを二次流通市場に高値で売り出す

上の図を見ていただくとわかるように、このスキームにおける外部からの主な収益はゲームの新規参入者がもたらす法定通貨であり、そのほかに市場での流通額の一部が運営に還元されるという仕組みになっています。
ゲームに参加したいと思う人が多ければ多いほどトークンやNFTの価値が上がりますが、逆にゲームの人気が衰えてしまった場合、トークンやNFTの価値も下がり、新規参入者も減っていきます。新たな参入者が増えないままコインやNFTアイテムを発行し続けると、コインやNFTの価値が下がっていきます。そして、ゲームに参加する旨味が薄れていくために、さらに新規参入者も減っていくという悪循環に陥ります。

この「Play to Earn」の仕組みに欠けているのは、現実世界からの新たな収益源です。現実世界からの収益源がなければ、確実に廃れていきます。そのため、新たな収益源を得ることが模索されています。
例えば、前述のSTEPNの例では、アシックスとのスポンサー契約という新たな収益源を見つけています。今はまだSTEPNで利用できるアシックス限定のNFTスニーカーの発売にとどまっていますが、現実のアシックスのスニーカーにSTEPNのロゴを付けて売るだけでも多くのユーザーの購入が見込まれます。
あくまでも私見ですが、STEPNの強みは、ビジネスモデルだけではなく、そのデザイン力の高さにもあるように思います。STEPNのサイトを見ると、その洗練されたデザインに圧倒されます。STEPNのスニーカーはそのデザインだけでも高い市場性があるのではないでしょうか。
また今後、様々なGoodsやアパレル商品が販売されることで、一定の収益をロイヤルティーという形で獲得することができるようになれば持続可能なビジネスモデルとなり、ますます人気が高まるでしょう。すでにWebサイトで公開されている投資家には、スタートアップ投資で多くの実績があるセコイヤキャピタルも名を連ねており、STEPNの潜在的成長力の高さがうかがえます。

事例2:トリマ

日本においても、STEPNに似たサービスで、歩くだけでポイントが貯まって商品券などに交換できる「トリマ」というサービスがあります。2022年4月現在ですでに900万ダウンロードされている(同社WEBサイト)という人気のアプリです。貯まったポイントをAmazonギフト券などに交換することが可能ですが、こちらの収益源は広告費用です。ポイントを貯めるための活動としては、歩くことだけではなく、表示される広告を見ることでもポイントが加算されていきます。また、位置情報を利用することで近隣の店舗からクーポンが送られてくる仕組みがあり、送客の仕組みとして活用されています。まだメタバースとは言い難い段階かもしれませんが、「Move to Earn」のビジネスモデルとしては参考になると思います。

事例3:Zwift

スポーツに関連したサービスとして、Zwiftという室内サイクリングサービスも人気を集めています。元々メタバースとして始まったサービスではありませんが、バーチャルワールドで大勢の人たちとサイクリングを楽しめるというアプリであり、メタバースの文脈で語られることが多くなっています。このようなバーチャルなオンラインコミュニティが、メタバースの経済圏でさらに発展していくことは今後も続くと思われます。
Zwiftでは、サービスを始める前に必要な機器を購入する必要があります。シューズに装着するデバイスも販売しており、サイクリングだけでなくランニングでの参加も可能です。ゲームに参加するための月額費用もかかりますが、元々はサイクリングなどのエクササイズをみんなで楽しむためのサービスとして考え出されたビジネスであり、フィットネスクラブの代替としての需要を取り込んでいるために、毎月ジムに支払う会員費用に比べれば安価な価格設定になっています。

ブロックチェーンゲームへの先行投資

最近はブロックチェーンゲームへの先行投資を促すプロジェクトが数多く存在しています。まるでICOの初期段階の頃のようです。数年前のICOブームの時には、投資したプロジェクトが完成しないことが80%程度あるとも言われ、購入したコインが無価値になってしまったことすらありました。
当時と異なるのはICOではプロジェクトの詳細をホワイトペーパーという形で公開していましたが、その代わりに、新しいプロジェクトのゲーム映像やデモ版のプログラムが公開されており、プロジェクトの内容が技術に詳しくない人でもよりわかりやすく具体的に情報提供されているということです。

もちろん、プロジェクトで開発されるゲーム自体に興味があり、相応なお金を払ってでも遊んでみたいのであれば問題はないのかもしれません。しかし、値上がりを期待して専用のトークンを高額で購入した場合は、たとえそのゲームが完成しなかったとしても弁済されない可能性があります。トークンの購入は物品購入と同じ扱いであるため投資とはみなされず、金融規制の対象外ですし、購入したトークンはゲームが出来上がるまで保有しておく必要があるため、クーリングオフの適用期間を超えてしまうおそれもあります。そもそもクーリングオフは相手に書面で伝える必要があるため、住所がわからないことには手続もできません。
トークンは、主に海外のサイトにおいて暗号資産で販売されているため、相手を探して法的手段に訴えることはほぼ不可能だと思われます。
「Play to Earn」の世界では、それぞれのゲームがどのようなビジネスモデルで、現実世界からの収益源をどこに求めているのかをよく吟味する必要がありますが、リアルビジネスの起爆剤としてうまく活用できるのであれば、「Play to Earn」にはまだまだ大きな可能性があると思います。

著者略歴

東海林 正賢(しょうじ・まさより)
Jazzy Business Consulting株式会社 代表取締役
一般社団法人オルタナティブデータ推進協議会 代表理事

新卒で外資系システムサービス会社へ入社し、新規事業開拓を担当。2015年にコンサルティング会社に転職。フィンテックに関する専門組織を立ち上げ、統括パートナーとして組織をリード。2021年に一般社団法人オルタナティブデータ推進協議会を立ち上げ、代表理事に就任(現任)。2022年に独立し、Jazzy Business Consulting株式会社を立ち上げ、代表取締役に就任(現任)。

バックナンバー

第1回 メタバースが経済をつくる
第2回 メタバースでイベントを開催したい!

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