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ベネフィット・コーポレーション-持続可能な社会の実現を目指す会社制度として

こんにちは、中央経済社note編集部です。
皆さんは、ベネフィット・コーポレーションをご存じですか?
2022年6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針 2022」(骨太方針2022)の中で、「新たな官民連携の形として、民間で公的役割を担う新たな法人形態の必要性の有無について検討する」ことが表明されており、同日閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では、そのような新たな法人形態の一例として、ベネフィット・コーポレーションが挙げられています。欧米で法整備が進んでいるということなのですが、どんな制度なのか、わが国でも今後の制度化されるのかと、気になるトピックの一つです。
そこで、今回、福岡大学の畠田公明先生にその概要を解説していただきました。もっと知りたい、勉強したいという方もご安心ください。畠田先生の筆によるベネフィット・コーポレーションに関連する米国の州会社法等や判例などを繙いた研究書『社会的営利会社の立法とガバナンス』が、すでに出版されています。

1  はじめに

現代の資本主義社会において生じる社会問題や環境問題などについて、従来、各企業はそれぞれの方法で対応してきた。しかし、企業の持続可能性の観点から、日本も含めた各国の企業が、その社会的問題などについて必ずしも十分な実効性のある措置を講じてきたとはいえない。むしろ、その解決に取り組んでいることを主張するけれども、実際にはそうでないことも見受けられる。

最近、カナダのブリティッシュ・コロンビア州法をはじめとして、 アメリカ以外の国でアメリカ型のベネフィット・コーポレーションの立法化が採用されてきている。近時SDGsが盛んに議論されており、ベネフィット・コーポレーションの規定をわが国においても、積極的に導入することを検討する時機にきている。
以下では、ベネフィット・コーポレーション会社制度についての州制定法の内容、その取締役の義務、利益報告書、最後に、日本版ベネフィット・コーポレーションの意義と導入の可能性について述べる。

2 ベネフィット・コーポレーションに関する州制定法の内容

近年のアメリカでは、伝統的な株主第一の考えが否定されて、ベネフィット・コーポレーションに関する州制定法を採用する州が増加している。その制定法の類型として、①Bラボによるモデル・ベネフィット法、②デラウェア州法、および③模範事業会社法に大別される。2020年改正の模範事業会社法の規定は、上記①と②を折衷するような規定をしているので、その規定内容の概略について紹介する(以下、模範事業会社法の条文のみを示す)。

―公共的利益の追求

ベネフィット・コーポレーションの定款には、一つまたは複数の公共的利益の追求を明記することが要求される(§17.01(a)(b)。公共的利益とは、一つまたは複数の共同体または人(株主以外の者)、学術・慈善・経済・社会・環境などへの積極的効果(または消極的効果の削減)を意味する(§17.01(b))。

―取締役の義務〈株主以外のステークホルダーの利益の考慮〉

取締役会の各構成員は、取締役の義務を履行する際、㋐責任のある持続可能な方法で、かつ㋑公共的利益規定において認定されている公共的利益を追求する方法で、行為すべきであると規定される(§17.04(a))。取締役は、株主の利益に加えて他のステークホルダーの利益を考慮しなければならない(§17.04(b))。

伝統的な信任義務(注意義務・忠実義務)の判例に対するベネフィット・コーポレーションの制定法の影響について、他のステークホルダーの利益が考慮されなければならないという要件は、コーポレート・ガバナンスの株主第一の理論が制定法により否定されることを意図している。
また、取締役は、株主以外の者に対して信任義務または他の義務を負わないとする規定(§17.04(c))によって、株主以外の者の利益に基づく請求に対して広く保護され、さらに経営判断の原則による保護も認められる。

―年次ベネフィット報告書の作成〈第三者評価〉

ベネフィット・コーポレーションの目的が達成されるようにするための方法として、その目的を遂行する取締役の義務・責任の明確化をするとともに、ベネフィット・コーポレーションの目的が達成されているかどうかを評価するために、独立した第三者基準の利用による年次ベネフィット報告書の作成が必要とされる(§17.05)。これにより、ベネフィット・コーポレーションのパフォーマンスの評価が容易となり、これについての取締役の説明責任の有無の判断、ひいては、いわゆるグリーンウォッシング(greenwashing)の防止にもつながると考える。

3 日本版ベネフィット・コーポレーションの意義と導入の可能性

わが国において、近年、CSR、ESG、SDGsなどが盛んに議論され、会社の社会貢献の要請が強くなっている。八幡製鉄政治献金事件の昭和45年最高裁判決以後、従来の取締役などの経営陣の裁量による株主の利益に直接つながらない寄付その他の社会貢献に対して、寛容的な土壌が形成され、また、現行会社法の体系においても、従来の企業形態にはない営利と非営利の双方を同時に追求するハイブリッド型の会社を認めることは、それほど困難であるとは思えない。

ベネフィット・コーポレーションを採用する理由ないしはメリットとして、①会社の利益第一主義ではなく、会社使命(ミッション)の維持・強化に対して魅力を感じる投資家の増加、②会社のミッションに賛同し価値を共有する優秀な人材の確保、③その会社の社会的評価の向上および顧客の増大、④取締役などの経営陣は会社の財務上の利益のみならず株主以外のステークホルダーの利益を考慮する決定をしても、責任を問われず法的に保護されることが挙げられる。

ベネフィット・コーポレーションの会社制度を認めることにより、多様なニーズにも応じることができて、とくにスタートアップ企業などのような中小企業に対するインパクト投資家の投資の増加にもつながるものと考える。

参考文献

畠田公明『社会的営利会社の立法とガバナンス』(中央経済社、2022年)

筆者略歴

畠田公明(はただ・こうめい)
福岡大学教授、博士(法学)
シンポジウム「SDGs時代におけるベネフィット・コーポレーション制度の国際比較」(拓殖大学文京キャンパス、2022年 9月3日)において「アメリカのベネフィット・コーポレーションについて」報告。

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